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障害問題

2015年2月18日(水)

福岡視覚障がい者審査請求事件書籍「障がい者差別よ、さようなら!」紹介1

表紙 障害者差別よ、さようなら!「障がい者差別よ、さようなら!」

 全国各地で闘われた障がい者の権利のための裁判事例を、担当した弁護士自らが簡明簡潔に分析報告し、今後の権利確立の取組みの指標を指し示す必読必携のケーススタディブック第2弾! 

著者:障害と人権全国弁護士ネット

発行所:株式会社生活書院

定価:3000円+税

この本の中で、星野圭弁護士が二つの事例を報告していますので、2回に分けてご紹介します。

失明した市役所職員に対する分限免職処分の取消しを求める審査請求

2012年11月30日処分取消裁決

 

Ⅰ 事案の概要

審査請求人のAさん(50代男性)は、福岡県内にあるY市役所の職員です。2006年11月頃、糖尿病性網膜症と診断され、その後、手術や治療のための療養休暇を経て、2008年2月から視覚障害のために休職となりました。

Aさんの状態は、左目が完全失明、右目は矯正視力0.2あるものの明暗がきかない状態で、2008年7月に身体障害者手帳3級、2009年2月には同手帳2級の交付を受けていました。Aさんは、休職期間中においても、職場復帰に向け、自力訓練や職業リハビリテーションに励む一方で、Y市との間で復職のための協議を続けました。その後、主治医らから復職可能との意見を得て、AさんはY市に対し、職場復帰を申し出ました。

Y市は、2011年1月から2月にかけての6日間、Aさんの職場復帰に関する検証作業を実施しました。検証作業の内容は、パソコンによる文書作成、文書の製本、指定された資料の探索、パンフレットの仕分けなど、視覚障害になる前の一般事務と同じものでした。

Y市は、当該6日間のみの検証作業の結果を踏まえて、復職は困難であると判断し、2011年2月、3年間の休職期間の満了時点をもって、Aさんは視覚障害により地方公務員法28条1項2号「心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えない場合」に該当するとして、分限免職処分(民間企業における「解雇」に相当するもの。)としました。

Aさんは、視覚障害の特性を無視した検証作業の結果を過度に重視した本件処分は違法・不当であることなどを主張して、本件処分を取消し、復職させるよう求める審査請求を申し立てました。

 

Ⅱ 当事者の主張の概要

1 審査請求人Aさんの主張

障害者雇用においては、事業主が当該障害者の正当な能力を評価し、可能な限りの人的・物的支援を講じて能力を補うことによって、障害者の能力を活用しながら雇用の維持・継続を図るという考え方が不可欠です。地方公務員法28条の分限免職規定の適用においては、まず、事業主が、障害者の雇用継続に対する努力を徹底的に尽くした上で、それでもなお、障害のために職務遂行への支障が重大かつ深刻な程度に達しているという場合にのみ、分限免職処分が許されると解すべきです。

Aさんは検証において求められた作業はすべて実行できていました。Y市が能力不足の理由とした作業上のミスは、誤字脱字や形式上のミスであり、誰にでも起こりうるレベルのものでした。しかも、Y市は、Aさんに視覚障害があることを知りながら、視覚的に確認できるミスを確認していないことをもって分限処分の理由としました。このような検証はそもそも不合理です。

また、Y市は、障害のあるAさんに対して与えるべき仕事がないと明言しましたが、障害者雇用においては、当人の障害特性や障害の程度・能力に応じた職務を与えるべきことが当然であって、仕事がないということはありえません。

さらに、Y市は、処分を正当化する理由のひとつに公務能率の維持向上を挙げました。しかし、障害者雇用の促進を率先垂範する立場にある行政庁にあっては、障害者雇用を全うする要請をまず充足した上で初めて行政庁の公務能率の維持向上の要請が求められるというべきであって、行政の公務能率の維持向上を図るために、障害者雇用を止めるというのはまさに本末転倒の議論です。

本件では、Y市のすべての職務を対象に、職務の遂行方法、業務分担、人的支援のあり方などを含め、当該障害者の能力に見合う代替業務について、あらゆる可能性を検討し尽くす必要があるところ、本件ではその検討がなされていないのであるから、本件処分は裁量権の逸脱・濫用として取消しを免れないというべきです。

2 Y市の主張

検証作業の結果によれば、Aさんは、パソコンによる文書作成においては記載漏れが多く、また所要速度も他の職員の約3倍の時間を要すること、文書製本や書籍の活用、パンフレットの仕分け等についても作業時間が長く、ミスが多いこと、口頭説明では必要な情報の記録に漏れが多いことなど、基礎的な事務能力が低く、他の職員の平均的な業務を行うには他の職員の多大な支援、補助を要すると判断されます。

Aさんが復職した場合、業務時間内に担当業務を終わらせることができないことに加え、ミスが多いことから、他の職員が業務を代行することや、勤務時間外に支援するなどの支援が必要となります。そのため、Aさんが業務を遂行すると、他の職員の担当業務に大きな支障をきたすものといえます。

また、窓口応対では、Aさんが、相手と同じ文書を見ながら説明したり確認することが困難であることなどから、窓口を訪れた住民の理解を得がたく、配置は適当でないといえます。

地方公共団体は、住民の福祉向上に努めると同時に、住民の責任とその負担によって運営されるものである以上、常に能率的かつ効果的に処理されなければならず、最小の経費で最大の効果を挙げることが強く求められています。

Aさんを分限免職にする本件処分は、障害者の雇用の安定に努めなければならない責務を考慮しつつも、Aさんの病状、業務遂行能力等から他の職員の本来の業務の遂行に大きな支障がある以上、地方公務員法28条1項2号に該当するものと判断したもので、Y市の人事に関する裁量権の範囲を逸脱したものではなく、適法かつ妥当なものです。

 

Ⅲ 裁決の要旨

Y市公平委員会は、以下のように判断して本件分限免職処分の不当性を認め、最終的には本件分限免職処分を取り消しました。

「処分者の判断は、視覚障害を持つ審査請求人の雇用を維持する場合には、公務に支障が生じるとしたものであり、公務の能率及びその適正な運営の確保の目的や動機に基づいている。また、同判断は、前記目的と障害者雇用促進との調和の観点から必要相当な手続をもってなされており、他の職員の業務への支障などの考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮したという事情もない。さらに、当該処分者の判断が許容される限度を超えた不当なものともいえない。」「したがって、本件分限免職処分は、裁量権の行使を誤った違法のものであるとはいえない。」

「もっとも、近時、障害者雇用の継続が重視されており、障害者に対する障害を理由とする分限免職処分の妥当性については慎重に判断されるべきである。

処分者としては、少なくとも平成23年2月中旬ころまではY市役所内における職場訓練をさせた上で検証作業を行うべきであったと考えられる。」「したがって、そのような十分な準備期間を設けずになされた検証の結果をもとに判断された本件分限免職処分は、不当な処分と評価せざるを得ず、これに反する原処分庁の主張には理由がない。」

 

Ⅳ 裁決の意義

1 裁決に対する評価

裁決は、Y市の判断に違法な点はなかったが、検証手続のあり方に関して一部不当な点があったと指摘するに止めました。裁決の結論は妥当であり、結果的に、本件分限免職処分は取り消されて、Aさんは職場復帰を果たすことができました。しかし、処分を取り消した裁決の理由については、残念ながら、障害者差別の問題にはまったく踏み込まず、むしろ障害者差別を助長しかねない非常に問題のあるものでした。

2 本件における2つの問題点

本件では、Y市の判断に裁量権の逸脱・濫用があったかという争点に関連して、主に①検証作業のあり方と②公務の能率及びその適正な運営の確保の観点から障害者雇用が制限を受けるかという点が問題となりました。①検証作業のあり方に問題があったことは裁決でも認められたとおりですが、本件の本質的な問題点は、裁決が判断を避けた②の点でした。

3 Aさんの働く能力と障害者雇用

2007年4月17日、厚生労働省は、各都道府県の労働局に対して、「視覚障害者に対する的確な雇用支援の実施について」と題する通知(職高障発第0417004号)を発しています。この中で、厚労省は、「在職視覚障害者の継続雇用支援」として、「在職中に視覚障害を受障した者については、その雇用を継続させ、離職を防ぐことが最も重要である」と明記し、「在職視覚障害者の雇用の継続には、当該者を雇用する事業主の視覚障害に関する正しい理解と本人の雇用継続に向けた努力への支援、そして、雇用継続の決定が不可欠である。特に、視覚障害者の職域は確実に拡大していることについて、事業主の正しい理解を促進することが重要である」として、事業主に対し視覚障害に対する正しい理解を求めています。

Aさんは、視覚を大きく失って以来、一時的には復職の意欲を失いそうになりながらも、復職に向けたリハビリを続けました。その結果、検証作業が実施された頃には、Aさんの主治医を含む3名の医師すべてが、Aさんについて、復職し就労することが可能であると診断していました。それにもかかわらず、Y市は、「審査請求人が業務を遂行するにあたっては、支援・補助の度合いが大きく、他の職員の担当業務に大きな支障をきたすものである」と述べた上で、Aさんの復職を拒否しました。このようなY市の考え方は、視覚障害者は職場のお荷物なので排除せざるを得ないと公言するようなもので、上記の厚労省通知に反するのみならず、障害者基本法や障害者権利条約などをもないがしろにするもので、違法かつ不当というべきものでした。

4 「公務の能率及びその適正な運営の確保」と働く場所

審査請求の中で、Y市は、Aさんに対する支援のために他の職員の担当業務に大きな支障をきたすことが公務の能率及びその適正な運営の確保の観点から問題であると主張しました。しかし、障害者を公務の能率や適正な運営を害する存在と見ること自体、極めて大きな問題です。そもそも、障害者雇用の維持継続と公務の能率確保とは価値基準を異にする概念であるといえますので、これを比較すること自体が本来は誤りというべきです。

さらに、Y市は、Y市のような地方公共団体には、視覚障害者であるAさんが働ける場所(業務)がないと主張しました。

しかし、Y市は決して小さな職場ではありません。Y市は、人口7万人弱(福岡県内60市町村のうち上から4分の1以内に入る規模)、職員数650人弱、歳入総額の規模は300億円を超える福岡県内で6番目前後の中規模自治体です。民間企業で言えば大企業にあたります。これだけの規模のY市に、視覚障害者の働く職場がないとすれば、民間の中小企業における障害者雇用は絶望的な状況となります。Y市の主張は、視覚障害者に対しその適性に応じた業務を見つけようとする気持ちがないことを端的に表していました。

5 Aさんのその後

Aさんは、本件処分が取り消されたことにより、職場復帰を果たしました。Y市は、Aさんの障害特性に合わせて、Aさんを電話受付対応などの業務に配置しました。Aさんが従事できる業務はあったのです。

本来、Y市が、Aさんから復職の申し出を受けた際に真っ先に検討すべきであったのは、Aさんの障害状態はどのようなものか、Aさんにできる業務は何か、どのように配慮すれば業務を遂行できるのかということでした。Aさんの復職という実績を受けて、今後のY市ではそのような対応を期待できるかもしれません。

Aさんは、Y市の障害者雇用の歴史に実践的な知恵と発想をもたらし、確実に行政運営を変えさせました。Aさんの奮闘が、障害の有無によらない共生社会を構築する第一歩につながったものと言える事案でした。

以上

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