韓国でのアスベスト調査など
じん肺とアスベストの弁護団などで調査団を組んで韓国へ行ってきました。その報告をいたしますが、アスベストにあまり興味のない方は1を飛ばして、2のみをお読みいただいてもかまいません。
1 主な目的は韓国における建物からのアスベスト除去制度についての調査でした。韓国にはかつてアスベスト鉱山があり、アスベストを含んだスレート屋根の建物が多くあるそうで、そのスレート建材の除去が進んでいるのです。一方、高度経済成長による大きなビルディングが建てられたのが日本より遅く、アスベストの危険性が知られてからだったようで、そのような建物に使われる吹付材はあまりないとのこと。
(1) 環境団体との交流会を行い話を聞きました。
アスベスト鉱山などで働いた者の労災ではなく、環境からのばく露によるアスベスト被害が問題の中心だとのことでした。アスベスト鉱山は、日帝(日本帝国主義による占領がおこなわれていた時期)時代は、アジア最大のものがあったのですが、その後は中小零細の鉱山が中心で、同じような形態の多かった建設労働者を含め、労働者の把握が困難だとのこと。おそらく働いてばく露した労働者も、環境ばく露の制度で保護されているのでしょう。
環境団体はとても活発に活動しておられました。特に学校でのアスベストばく露防止のために活動している保護者団体の方は、旺盛に活動している様子を、熱心に語ってくれました。学校を点検して回り、アスベストを発見し、徹底して周辺に飛散しないように除去をさせているのです。日本でも婦人団体と労働組合などが「学校ウォッチング」活動をやっていますが、その韓国版、アスベスト特化版です。
(2) 補償は例えば日本では対象外となっている合併症を伴わない軽症のアスベスト肺も対象となっていました。そのため、アスベストによる中皮腫や肺がんよりもアスベスト肺の患者の方が多いのです。環境からのばく露で、比較的大量のばく露によって発症するというアスベスト肺が生じるというのは驚きでした。日本では環境ばく露は職業性ばく露に比べて重視されていませんが、見過ごされている危険があると感じました。
10代で中皮腫を発症してしまった方の話を聞くこともできました。
(3) 地方自治体(忠清南道)や中央省庁(労働部、環境部)と懇談をしました。
行政によるアスベスト除去の努力と補助はきわめて充実しています。全国のアスベスト使用建物を調査してリストアップし、検索のシステムを作っています(実はそれを作成した詳細については、直接の担当部署からの聴取ができなかったので、調査不十分ですが)。自治体では、日本よりはるかに多額の補助金を出してアスベスト建材を除去しようとしています。日本のように、単に「解体や除去するときには飛散しないように行いなさい」というに留まらず、より積極的に「アスベスト建材は除去しましょう」という対応なのです。予算に限りはあるのですが、毎年着実にアスベストの除去は進んでいます。
(4) スレート屋根の建物の現場に行って、解体、除去業者の方の話も聞きました。
除去方法も、スレートなどの板(成形版)については、日本では重機でなくて手ばらしで解体する、負圧の中で解体するという程度の規制ですが、韓国では徹底した湿式による解体、除去が規制され行われていました。石けんのような湿潤材を溶かした水(より粉じんに付着する)を十分に注ぎながら解体、除去を行うのです。日本では、吹付材ばかりに目が行っており、成形板の飛散防止対策は不十分です。
以上、たいへん有意義な調査で、「なくせじん肺アスベスト全国キャラバン」での要請などを通じて、この調査結果を生かし、日本での規制の充実を実現すべく頑張ろうと考えています。
2 観光も行いました。
非武装地帯に行って、北朝鮮が侵攻するために掘っていたトンネルを歩きました。ヘルメットをかぶり、天井に頭が当たらないように気をつける必要がありましたが、それでも数万人が侵攻のため通ることができるとのことでした。北朝鮮が見える展望台も訪れました。これらの施設では基本的に写真撮影は禁止です。道路にはゲートが設けられ、バスの中に軍人が入ってきて乗客のパスポートを逐一確認していました。
ソウルを流れる漢江に沿って下流に向かうのですが、途中で国境や北朝鮮から流れてくるリムジン川と合流します。その合流地点のずっと手前(ソウルの街中を出てまもなくのところ)から、漢江の川岸には延々と鉄条網が張られ、途中途中に見張り台が建てられていました。スパイなどを寄せ付けないようにするためのようです。
アスベスト調査のために訪れた労働部、環境部も、ソウルから高速道路で1時間半から2時間かかる世宗市というところにあるのです。首都機能分散が行われています。真偽のほどは不明ですが、ソウルが北朝鮮にあまりに近いからだろうという人もいました。
以上のように目に見える緊張があちこちにありました。日本でも南西諸島や九州を中心に軍事施設の充実が進んでいます。沖縄には米軍基地がたくさんあります。国際情勢によって日本でも日常的に「目に見える緊張」がたくさん出てくれば、住みにくい国になるだろうなと感じました。