生活保護基準引下げ処分取消訴訟 福岡高等裁判所で逆転勝訴!
司法は生きていた
法廷で、処分を取り消すという判決主文が読み上げられた瞬間、原告団長の中島さんは「勝ったぁ」と思わず声を上げました。その声を聞いて、私も、涙がこみ上げてきましたが、判決要旨の読み上げをメモするためぐっとこらえました。
10年にわたるたたかいが報われた瞬間でした。
2025年(令和7年)1月29日、福岡高等裁判所(松田典浩裁判長)は、生活保護基準引下げ処分の取り消し等を求めていた福岡県内の生活保護利用者39名による控訴について、原告の請求を棄却した第1審判決を変更し、同処分の違法性を認めた上で処分を取り消すという原告(控訴人)側の逆転勝訴判決を言い渡しました。
全国29の地方裁判所に提起されている同種訴訟において20例目の勝訴判決です。高等裁判所では、名古屋高裁に続く2例目の勝訴判決であり、高裁レベルでも今回の基準引下げの不合理性が明確になってきたといえます。
福岡高裁判決の内容
裁判の主な争点は、第1審に引き続き、➀判断枠組みをどうするのか、➁ゆがみ調整の適否、③デフレ調整の適否でした。
判断枠組みの問題
まず、判断枠組みついて、判決は、厚生労働大臣の裁量を認めつつも、厚生労働大臣は、憲法25条、生活保護法1条、3条、8条の「各規定の趣旨・目的を尊重すべきであり、これに反して裁量権を逸脱又は濫用した場合、その判断は違憲又は違法になる。」と述べた上で、いわゆる老齢加算訴訟の最高裁判決等を参照しながら、「本件各改定をした厚生労働大臣の判断の過程ないし手続に、統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性、被保護者の生活への影響の有無・程度等の観点から、憲法や生活保護法の趣旨・目的に反する過誤、欠落があったといえる場合には、裁量権を逸脱又は濫用したものと認めるのが相当である。」としました。これは、厚生労働大臣の裁量権が決して自由気ままなものではなく、一定の制限が課せられるものであることを認めたものでした。
デフレ調整が違法であること
次に、判決は、引下げ理由のうち「ゆがみ調整」については違法性が認められないとしましたが、「デフレ調整」については、「生活扶助相当CPIの算出に当たり家計調査に基づくウエイトを用いた点において、その過程に生活保護法8条1項の趣旨・目的に反する過誤、欠落があったということができ、裁量権を逸脱又は濫用したものといえるから、違法性が認められる。」として、原告側の主張を認めました。
「家計調査」というのは、総務省統計局が毎月実施しているもので、貧困世帯に限らない国民全体の消費生活の実態把握を目的とするものです。総務省CPIは、家計調査に基づいてつくられています。家計調査は国民全体(一般世帯)の消費実態を示すものですが、一方で、生活保護利用世帯(被保護世帯)と一般世帯の消費構造はまったく異なっています。本判決でも、一般世帯と被保護世帯では「エンゲル係数等、違いがあることは顕著な事実」であると指摘されています。
本来、生活保護は、「厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし」て実施されるものです(生活保護法8条1項)。しかし、家計調査は「要保護者の需要」を反映するものではないため、家計調査のみを基準改定の資料としてしまうと、生活保護利用者の「需要」を無視した結果になってしまいます。
本判決は、まさにこの点を正当に指摘しました。
また、判決は、「厚生労働省は、被保護世帯又はこれに準じた世帯の消費構造を調査した結果に基づいて被保護世帯のウエイトを算定すべきであったというべきである。」と明言するとともに、厚生労働省が被保護世帯の消費実態を調査している「社会保障生計調査」を用いることも可能であったとも指摘しています。
社会保障生計調査は、厚生労働省が実施しているもので、被保護世帯の消費構造を調査するものです。まさに今回の基準引下げの基礎資料になるべきものでした。ところが、国は、自ら実施している社会保障生計調査は信用性が低いといってこれを無視していました。本判決は、国のそのような態度も糾弾しました。
最高裁での完全勝利を!
判決後の報告集会では喜びの声があふれました。原告の方々も口々に「勝ってよかった!」「うれしい」「長年のご支援、ありがとうございます!」と感謝の言葉を述べられていました。
名古屋高裁と同様に、国側は上告すると思われます。次は最高裁判所でのたたかいに移ります。
最高裁でも完全勝利して、今回の基準引下げに合理性がなかったことを明らかにするとともに、今後の保護基準の改定が被保護世帯の生活実態に応じた適正な設定になるよう、生存権保障を第一の目的とした保護行政の実現につなげるたたかいをしていきたいと思います。
全国各地の訴訟の勝利と、何より最高裁での勝利に向けて、引きつづき、ご支援をお願いいたします。