弁護士記事

2025年10月27日(月)

人権って、「あたり前」のものじゃない。

人権は「あたり前」のもの、そう思っていませんか?

日本国憲法には、個々人の基本的人権を保障する条文が多数存在します。

第10条から第40条にかけて、基本的人権の保障が権利の内容ごとに明記され、さらに、第97条から第99条にかけて、基本的人権を保障するものであるからこそ、憲法が最高法規に位置付けられるものであると宣言されています。

現在、誰もが「あたり前」の存在と思っている人権は、例えば次のようなものがあるでしょう。

個人の尊重原理や幸福追求権(第13条)、平等原則・平等権(第14条)、選挙権(第15条)

思想良心の自由(第19条)、信教の自由(第20条)、表現の自由(第21条)

職業選択の自由(第22条)、学問の自由(第23条)、両性の平等(第24条)

生存権(第25条)、教育を受ける権利(第26条)、勤労の権利(第27条)、財産権(第29条)

などなど

日本国憲法は、人の日常生活や社会生活を含めてあらゆる観点から、一人ひとりの人権を保障しています。

さて、2025年の参議院選挙に合わせて、とある政党が、新日本憲法(構想案)というものを公表しました。

この構想案は、全部で33か条。その内、人権に関すると思われる規定は9か条ほど。

しかし、人権というよりも、国が国民に命令している形式の内容が含まれており、国から命令を受けないという本来の意味での人権とは性質が異なっています。標題も「国民の生活」とされており、国が、国民の生活を規律する規範のような定め方になっています。

構想案では、用語も、「権利」ではなく「権理」という言葉が使われており、「理に適った」ものでなければならないという趣旨が含まれるようです。すなわち、「理」に適わないと判断される場合には、人権保障はないということになります。「理」に適うかどうかを誰が判断するのかは明らかにされていませんが、国が判断することになるのでしょう。

日本国憲法が明記していた人権規定は、影もかたちもありません。

憲法に書かれていなくても、人権は「あたり前」のものだから守られるに決まっている?

そんなふうに楽観的に思ってよいでしょうか。

あり得ません。

人権は、ある日突然保障されるようになったものではありません。

それは、たくさんの市民が文字どおり命をかけて、実際に血を流してたたかい、多大な犠牲を出しながら少しずつ獲得してきたものです。

人類の歴史を振り返ると、「人権」の歴史はそれほど古いものではありません。

紀元前の古代ローマには、自由という考え方はありましたが、個人の命の価値は低く、人権はありませんでした。

1215年、イギリスのマグナ・カルタが人権宣言の原型である言われますが、これは国王に対して貴族が領地の支配権を認めさせたもので、貴族に対して国王が好き放題できないようにするという意味はありましたが、市民の権利とは無関係でした。

1689年、名誉革命を経てつくられたイギリスの権利章典では、国王の権力を制限し、臣民の権利および自由が宣言されました。これが現在の人権の祖先とされています。

1776年、イギリスとアメリカの戦争を経たアメリカ独立宣言。

1789年、フランス革命後のフランス人権宣言。

いずれも、戦争や革命を経て、人権保障の対象者が少しずつ拡大していきました。しかし、この時代の「人権」は、一部の男性有権者に限り保障されるものでした。

19世紀には、奴隷制廃止運動、産業革命で多くの命が失われたことを受けての労働運動、女性参政権を求める運動が起こり、広がっていきました。

1946年、日本国憲法制定。

1948年、国連の世界人権宣言。

第二次世界大戦を経て、ようやく、現在「あたり前」と思われる「人権」が確立しました。

日本国憲法第97条は、「人権」の歴史を踏まえて、こう宣言しています。

「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」

長い時間をかけて獲得し、憲法にも明記して何とか国に守らせようとしている「人権」。

憲法に書かれなくても自動的に人権は保障されるなどという生易しいものではありません。

だからこそ、きちんと憲法に明記する必要があります。

日本国憲法は、戦後日本の未来を描いた未来図であり、戦争で疲弊しきった市民の希望を体現したものでもありました。

いろいろと言われることもありますが、憲法第9条の戦争放棄は、第二次世界大戦を体験した多くの市民が、未来に希望を託した条文でした。

「人権」は、あたり前のものじゃない。

「人権」の苦難の歴史を経て生まれた日本国憲法って、実はしっかりと私たちを守ってくれているんです。

今、あたり前に感じている「自由」や「人権」をこれからもあたり前に感じていくために、日本国憲法を、不断の努力によって未来に繋いでいければよいなと思います。

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弁護士紹介星野 圭

星野圭 弁護士

弁護士登録:2008年

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