住所や氏名を相手に知られずに訴訟を提起する方法があります! ―住所・氏名等の秘匿制度
1.はじめに
民事訴訟を提起する際に提出する訴状には、原則として原告の住所・氏名等を記載することになっています。
もっとも、一定の事情があれば、例外的に自らの住所・氏名等を相手に知られずに訴訟を提起することができる制度があります。今回は、この秘匿制度についてご紹介したいと思います。
2.秘匿制度とは
性犯罪の被害者が加害者に対して損害賠償請求を提起する場合でも住所・氏名等の記載が常に求められるとすれば、被害者に訴訟の提起を躊躇させることになってしまいます。
そこで、手続が改正され、2023年(令和5年)2月から、一定の場合には、事件の相手方に対して自らの住所・氏名等を秘匿して、民事訴訟等を提起することができるようになりました。
3.秘匿制度を利用できる場合
秘匿制度を利用できるのは、「住所等又は氏名等が他の当事者に知られることによって、申立て等をする者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」がある場合に限定されています。単に「相手に住所を知られるのは気持ちが悪いから」というだけでは、秘匿は認められません。
秘匿制度が利用できる具体例としては、
・性犯罪の被害者の加害者に対する損害賠償請求
・配偶者や交際相手のDVが原因で別居に至った被害者の離婚や損害賠償請求
・ストーカー行為、児童虐待に関する事案等
があります。
4.秘匿の対象となる情報
秘匿の対象となる情報は、「住所等と氏名等」とされています。
「住所等」とは、住所、居所、その他勤務先などの通常所在する場所をいいます。また、「氏名等」とは、氏名その他本籍などその人を特定するに足りる事情をいいます。
例えば、住所の秘匿が認められた場合には、本来の住所ではなく、「代替住所A」と記載することになります。
5.秘匿制度の流れ
⑴ 申立て
秘匿制度を利用する場合は、裁判所に対し、申立ての書類を提出します。
提出書類は、
・秘匿申立書(秘匿制度を利用する理由などを記載した書面)
・秘匿事項届出書(秘匿したい事項を記載した書面)
・「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」があることを証明する資料
です。
⑵ 審理と秘匿決定
裁判所が、「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」が認められるか否か等を審理し、申立てが法律上の要件を満たしていると判断すれば、秘匿決定をします。
6.最後に
秘匿制度は、被害者が訴訟提起を躊躇してしまうような場合にも訴訟を提起しやすくするための制度です。
相手に自分の名前や住所が分かってしまうのが怖いと考えて訴えることを躊躇されている方は、一度法律事務所へご相談されることをお勧めいたします。