河西龍介 弁護士記事

2025年8月12日(火)

強制執行ってどんな手続き?

1 はじめに

 強制執行とは、借金を滞納し続けたときに、裁判所が強制的に借金をしている人(債務者)の財産を差し押さえて滞納分の返済に充てる手続です。強制執行は、財産を差し押さえるという大きな効力がありますので、借金滞納があるというだけで認められる手続きではありません。
 今回は、どのような財産を差し押さえることができるのか、強制執行がどのような流れで行われるのかをお話します。

2 強制執行の種類

 強制執行は、どのような財産を差し押さえるかによって、選択すべき手続きが異なります。強制執行には、債権執行、不動産執行、動産執行の3つの手続きがあり、それぞれの手続きで差し押さえることができる財産は、以下のとおりです。

⑴ 債権執行

 債権執行とは、債務者が所有する債権を差し押さえる強制執行になります。具体的には、個人が対象の場合では、給与や預金が対象になります。また、事業者や企業が対象の場合は、売掛金債権や貸与金債権が対象になります。

⑵ 不動産執行

 不動産執行とは、債務者が所有する土地や建物を差し押さえる強制執行になります。具体的には、個人が対象の場合では自宅、事業者や企業が対象の場合は自社ビルなどが対象になります。

⑶ 動産執行

 動産執行とは、債務者が所有している動産を差し押さえる強制執行になります。具体的には、貴金属、現金(上限66万円)、骨董品、小切手、株券など換金価値があるものが対象になります。

3 差し押さえができない財産

 強制執行手続きでは、債務者の必要最低限の生活を保護するため、差し押さえができない財産を定めています。
 例えば、債権執行の場合では、給与に関しては原則として手取り額の4分の1まで(養育費の改修などを目的とした差押えの場合は手取り額の2分の1まで)しか差し押さえをすることができません。また、公的年金に関しては、差し押さえの対象外となっています。
 動産執行の場合では、衣類や家具など生活に必要な物は差し押さえをすることはできません。

4 債務名義の取得と強制執行申立前の手続き

 強制執行は相手の財産を差し押さえるという大きな効力がある手続ですので、強制執行が認められるためには「債務名義」の取得が必要です。
 債務名義とは、借金の支払いを請求できるのなどの権利の存在を証明するもので、債権の存在を公的に証明した書類のことをいいます。具体的には、確定判決や仮執行宣言付支払督促、和解調書、公正証書などがあります。
 なお、強制執行の申立てを行う前に、債務名義に強制執行の効力を持たせる手続き(執行文付与の申立て)を完了しなければなりませんが、債務名義の種類によって手続きは異なります。

5 強制執行の流れ

 以上の強制執行申立前の手続きが終了した後、強制執行の申立てを行うことになります。手続きの流れは、強制執行の種類で異なりますので、以下それぞれについて説明します。

⑴ 債権執行

 債権者は、債務者の住所を管轄する裁判所へ申し立てをしなければなりません。
 裁判所が債権執行の申立てについて精査をした後、認められれば債務者に対して「債権差押命令」が発令されます。発令後は、債務者と債権者それぞれに対し「差押命令正本」と「送達通知書」が送付されます。この際、「第三債務者」に対しても、差押命令の通知が送られます。
 第三債務者とは、債務者に対してさらに債務を負っている者のことをいいます。具体的には、給与債権の場合は債務者の勤務先である会社、預金債権の場合は預金のある銀行、売掛債権や貸与債権の場合はその取引先になります。
 債務者が債権差押命令正本を受け取って一定期間経過すると、債権者は「第三債務者に対する取立権」を持ち、債務者に代わって債権者が第三債務者へ取り立てを行うことが可能となります。

⑵ 不動産執行

 債権者は、差し押さえをする不動産を管轄する地方裁判所へ申し立てを行わなければなりません。
 裁判所が申立てを正式に受理した後は、不動産の調査、最低競売価格の算出が行われます。最低競売価格が算出された段階で、裁判所が競売期日を指定し、落札価格が決まり次第、落札価格から債権者へ配当されます。

⑶ 動産執行

 債権者は、差し押さえをする動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官へ申し立てを行います。
 債権者は、執行官と動産執行の日時を打ち合わせ、動産執行の日時に差押現場に行き、動産を差し押さえます。差し押さえた動産は競売にかけられ、落札価格から債権者へ配当されます。

6 最後に

 強制執行は、とても大きな効力がある手続きであるため様々な手続きを経て行う必要があります。また、費用倒れしないためにも、財産の調査をしっかり行うことも必要です。強制執行を検討中の方は、是非今回の記事を参考にしていただければと思います。

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弁護士紹介河西 龍介

河西龍介 弁護士

弁護士登録:2019年

大型書店や不動産鑑定評価・補償コンサルタント会社での勤務を経て、弁護士になりました。自分の経験も活かしながら、皆様の日々の生活が少しでも楽しく豊かなものになるような活動を心がけています。