1 はじめに
前回、前々回と離婚の基本についてお話ししてきました。ご興味のある方は、2026年2月15日の弁護士記事、2026年4月13日の弁護士記事もご覧ください。
今回は、「3年以上の生死不明」と「その他婚姻を継続し難い重大な事由」についてお話しします。特に「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とはどのような事由のことなのかを具体的にお話ししたいと思います。
2 3年以上の生死不明(民法770条1項3号)
⑴ 「生死が…明らかでない」場合とは
配偶者の生死が3年以上明らかでないことは、離婚事由の1つとされています。「生死が…明らかでない」場合とは、生存も死亡も確認できない状態のことをいいます。
したがって、単に別居している場合はこれに当たりません。また、行方不明になっている場合もこれに当たらないといわれています。もっとも、長期間行方不明である場合は、これに当たるとされる場合もあります。
⑵ 失踪宣告との関係
民法上、失踪宣告という制度があります。失踪宣告とは、長期間生死不明の人を法律上「死亡したものとみなす」制度です。そのうち、普通失踪(民法30条1項)では、不在者の生死が7年間明らかでない場合、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます。つまり、失踪宣告の申立てによっても、死亡したものとみなされる結果、婚姻関係が解消されます(民法31条)。
しかし、失踪宣告は取り消される可能性があるため(民法32条)、失踪宣告による婚姻関係の解消は、必ずしも安定したものではないといえます。
そのため、身分関係を安定させるためには、「3年以上の生死不明」を理由として、裁判上の離婚を申立てる方がよいでしょう。
3 その他婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項4号)
⑴ 婚姻を継続し難い重大な事由とは
「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が深刻に破綻し回復の見込みがないことをいうとされています。そのため、婚姻関係が破綻したとみるべき事情があれば、相手に責任がなくとも離婚が認められます。
婚姻関係が破綻しているか否かの判断は、当事者の主観的側面のみではなく、客観的に婚姻関係が破綻しているかも考慮して判断されます。
⑵ 具体例
婚姻を継続し難い重大な事由の具体例としては、暴力・暴言(ア)、性格の不一致(イ)、宗教活動(ウ)、浪費(エ)、配偶者の逮捕(オ)、親族との不和(カ)、配偶者が重い精神病にかかった場合(キ)、認知症と判断された場合(ク)などがあります。
ア 暴力・暴言
配偶者による暴力は、被害を受けた配偶者の生命及び身体の安全を脅かす犯罪行為ですので、離婚が認められることに争いはありません。これに対し、暴言は、その発言が重大な侮辱に当たるときに離婚が認められるとされています。
なお、被害者側に暴行や暴言を招く原因があったとしても、暴行や重大な侮辱といえる暴言が度重なる場合には、離婚が認められると考えられています。
イ 性格の不一致
夫婦においては、多少の性格の不一致が存在することは当然であり、それ自体が直ちに離婚原因になるとはいえません。もっとも、性格の不一致を原因とするトラブルが積み重なり、婚姻関係が破綻した場合には離婚が認められます。
ウ 宗教活動
憲法20条1項は信教の自由を保障しており、夫婦間においても信教の自由は尊重されます。そのため、配偶者が相手に対して熱心に宗教団体への入会を勧めたとしても、それだけで直ちに離婚事由になるわけではありません。もっとも、配偶者が宗教活動にのめりこみ、家庭を顧みることがなくなったといった事情により婚姻関係が破綻した場合は、離婚が認められると考えられます。
エ 浪費
配偶者の浪費により生活費が足りなくなっている場合は、浪費によって婚姻生活が維持できなくなっているといえるため、離婚が認められると考えられます。
オ 配偶者の逮捕
配偶者が逮捕されたとしても、短期間で釈放されることもあるため、直ちに離婚原因に当たるとはいえません。もっとも、拘禁刑に処されるなどして長期間にわたり身柄を拘束され、婚姻生活を継続することが困難になるような場合には、離婚が認められる場合があると考えられます。
カ 親族との不和
親族との不和がある場合、単に折り合いが悪いというだけでは、離婚は認められません。もっとも、配偶者がその親族に肩入れし、親族との不和を改善するような働きかけを怠ったような場合には、離婚が認められると考えられます。
キ 配偶者が重い精神病にかかった場合
令和6年民法改正以前は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という離婚事由がありましたが、令和6年民法改正により削除されました。もっとも、配偶者が強度の精神病にかかったことは、「婚姻を継続し難い重大な事由」となる場合があると考えられています。
最高裁は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」であっても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできる限り具体的な方策を講じ、ある程度その見込みが立った後でなければ、直ちに婚姻関係を解消することは相当でなく、離婚を認めないと判示しています。
この考え方は令和6年改正後においても妥当すると考えられ、配偶者の生活が成り立ち得る具体的な対策を講じた後でなければ、離婚が認められることはないと考えられています。
ク 配偶者が認知症と判断された場合
配偶者が認知症と判断された場合、認知症の程度が重度のものであれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」となる場合があると考えられています。
この場合も、上記の配偶者が重い精神病にかかった場合と同様に、配偶者の生活が成り立ち得る具体的な対策を講じた後でなければ、離婚が認められることはないと考えられます。
4 最後に
これまで3回にわたり、離婚の基本についてお話ししてきました。
実際の裁判離婚では、これまでお話しした離婚事由のうち複数が重なっていることが多くあります。そのため、仮に1つの離婚事由だけでは離婚が認められそうにない場合であっても、複数の離婚事由が積み重なることで、婚姻を継続し難い重大な事由があると裁判所が認定することもあります。
万が一、離婚を検討するようなことになった際には、これまでの話を参考にしていただければと思います。