「公序良俗違反」って何ですか
1 民法の規定と一般条項について
私人間の取引関係や権利関係などを規律する法律で最も一般的なものは,言わずと知れた民法です。
民法は,1896(明治29)年に制定され,その後,大小様々な改正が何度かなされましたが,現行の民法は1条から1050条まであり,日本の法律の中でも条文数が極めて多い法律の一つです。
民法は,私人間の売買や賃貸借,請負,委任など個別の契約に関する規定を細かく定めていますが,基本的には,各個人が契約内容を自由に決めることができるのが大原則です。これを私的自治の原則や契約自由の原則などと言い,民法521条でも「契約の当事者は,法令の制限内において,契約の内容を自由に決定することができる」と定めています。
もっとも,当事者がいくら自由に決められるからといって,契約は適法なものでなければならないし,社会的にみて妥当なものでなければなりません。
そこで,民法は,個人の権利や義務を行使するにあたって,広く全般的に適用される基本原理を定めており,一般条項と呼ばれます。
民法の一般条項としてよく知られているのは,「権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない」(民法1条2項)という「信義則(しんぎそく)」,「権利の濫用は,これを許さない」(民法1条3項)という「権利濫用(らんよう)の禁止」,そして,「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は,無効とする」(民法90条)という「公序良俗(こうじょりょうぞく)違反」です。
このうち,今回は,公序良俗違反について,少しだけ説明します。
2 公序良俗違反とは
公序良俗とは,社会的妥当性を意味していて,基本的に私的自治や契約自由の原則により当事者間で契約が成立したとしても,公序良俗に違反する内容だと裁判所が判断すれば契約が無効とされるもので,非常に重要な規定だとされます。
公序良俗違反として無効となるものは,以下のような類型の契約です。
①犯罪にかかわる行為(例:金銭を支払って殺人を依頼する契約)
②取締規定に反する行為(例:投資取引で出た損失を証券会社が保証する契約)
③人倫に反する行為(例:売春契約)
④射倖行為(例:賭博資金の貸付契約)
⑤自由を極度に制限する行為(例:借金のカタとして娘を売春宿に売り,借金返済名目で強制的に働かせる契約)
⑥暴利行為または不公正な取引行為(例:異常に高い金利での貸付契約,統一協会によるいわゆる霊感商法)
⑦個人の尊厳・男女平等などの基本権に反するもの(例:企業の定年の年齢が男女で違う契約)
3 私が最近獲得した「公序良俗違反」の判決
私が代理人としてかかわった民事裁判で,つい最近,公序良俗違反として無効となる判決を獲得しましたので紹介いたします(一審で確定)。
事案は,原告が,自分の妻と不貞行為をした被告との間で締結した慰謝料を支払うという内容の契約を巡る裁判ですが,このうち公序良俗に違反するかどうかが問題となったのは,原告が,妻との離婚後においても,元妻と被告との私的接触を禁止し,違反した場合には違約金を支払うという内容を定めた条項(以下「離婚後の違約金条項」)の有効性についてです。
被告の代理人である私は,離婚後に元妻と被告との私的接触を制約したり,ましてや制約に違反した場合に被告に違約金の支払を命じたりする契約は公序良俗に違反して無効であると主張したのに対し,原告は,離婚後には婚姻共同生活の平和の維持という保護すべき権利や法益がないとしても,契約自由の原則からすれば,離婚後の違約金条項が公序良俗に反することはないと反論しました。
これについて,福岡地方裁判所は,以下のとおり判断しました。
「他人と自由に接触し,さらに交際などの親密な関係を結ぶことは,人の幸福追求上重要な利益であり,正当な理由のない限りみだりに制約を受けるべきものではない。婚姻中に配偶者が第三者と不貞行為に及んだような場合,他方配偶者の婚姻共同生活の平和という法的利益を守る観点から,配偶者と当該第三者との接触を制約することはあるにしても,配偶者との離婚後においてまで元配偶者の当該第三者との接触や交際を制約し,その違反に対して違約金の支払義務を負わせることは,もはや保護されるべき婚姻共同生活の平和という法的利益が存在しない以上,正当な理由を見出し難く,公序良俗に反するというべきである。(中略)したがって,離婚後の違約金条項は,公序良俗に反し無効である。」
民法の一般条項が適用されて契約が無効と判断される判決は,それほど多くないため,参考になればと思い紹介いたしました。
契約が有効か無効かは簡単には判断できず,契約締結に至る経緯や契約内容,当事者の認識,他の判例などを詳細に検討した上で,主張立証する必要があり,法律の専門的な知識が必要になりますので,契約の有効性に関し疑問がある場合には,お気軽に当事務所にご相談下さい。