九電取締役会議事録閲覧謄写許可決定~電力カルテルの闇を暴け(第3回)
電力カルテル株主代表訴訟の現状
関西電力,中国電力,中部電力,九州電力の大手電力4社が,電気の小売供給に関し,お互いの営業地域における営業活動を制限したり,官公庁の入札で安値による電気料金の提示を制限したりするカルテル(複数の企業が連絡を取り合い,本来,各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める違法行為)を結んでいたとして,公正取引委員会から独占禁止法違反で摘発された電力カルテル事件を巡り,2023(令和5)年10月12日,4電力の株主が,当時の取締役ら経営陣を被告として,各社への損害賠償を求める株主代表訴訟を一斉提起したことは既に記事を書きました。
詳しくは,拙稿の2024年11月11日付け弁護士記事「電力カルテルの闇を暴け(第2回)」をぜひご覧下さい。
電力カルテルの責任を追及する株主代表訴訟は,その後,大阪(関電),名古屋(中部電),広島(中国電),そして福岡(九電)の4地裁で1年半以上審理が続いていますが,現在は,いずれの訴訟も,争点を整理するための弁論準備手続(原則非公開での審理)に付されていて,原告である株主側と被告である取締役ら経営陣側(実質的には経営陣を全面支援するため補助参加している電力会社側)双方の主張と証拠の提出が続けられています。
九電カルテル株主代表訴訟に関連する証拠収集に新たな展開
このうち,私が弁護団事務局長を務めている福岡地裁の九電カルテル株主代表訴訟に関連して,最近,大きな動きがありましたので報告します。
そもそも株主代表訴訟というのは,取締役が会社に損害を与える行為をしたのに,会社がその取締役の責任を追及しない場合,株主が,会社に代わって,取締役の責任を追及する訴訟を提起することができるという会社法に規定された制度ですが,株主は,会社の株式を持っているだけで,問題の取締役らが,会社の取締役会でどのような議論をし,どのような決定をしたのかが記載された取締役会議事録など会社の経営に関する重要な資料は一切保有していないどころか,それを自由に見たりコピーをとったりすることすらできない圧倒的に弱い立場にあります。
そうした中で,何の証拠も持たない株主が,会社経営に関する全ての証拠を握っている巨大な会社に闘いを挑んだとして太刀打ちできるはずもなく,そのままでは,会社に代わって取締役らの責任を追及するという株主代表訴訟の制度理念は,絵に描いた餅にすぎません。
そこで,会社法は,ごくわずかではありますが,株主が会社側の証拠を収集できるようにするための規定を設けています。
その一つが,株主が,その権利を行使するため必要があるときは,裁判所の許可を得て,会社の取締役会の議事録の閲覧や謄写を請求することができるという株主の取締役会議事録閲覧謄写請求権の規定です。
もっとも,取締役会議事録の閲覧謄写を請求する事件では,「株主の権利行使の必要性」と「会社に著しい損害が発生するおそれ」という二つの要件がいつも争点になり,裁判所は,株主の権利行使の必要性がない,あるいは企業秘密が含まれている取締役会議事録を開示すると会社に著しい損害が発生するおそれがあるとして,閲覧謄写を許可することはあまりないといわれています。
それでも,私たちは,この規定に基づき,九電のカルテル合意に関する証拠収集のため,2024年2月,九電の取締役会議事録の閲覧謄写の許可を福岡地裁に申立てし,この間,株主代表訴訟と並行して審理が続けられていました。
そして,2025年4月10日,福岡地裁(松葉佐隆之裁判長)から,私たちの申立てをほぼ全面的に認める画期的な決定が出されました。
2025年4月10日九電取締役会議事録閲覧謄写許可決定
公取委が認定した九電と関電とのカルテルは,官公庁入札における電力小売価格の調整に関するものですが,福岡地裁の2025年4月10日付け九電取締役会議事録閲覧謄写許可決定(以下「福岡地裁決定」)では,まず九電が存在そのものを否定したカルテルに関連する取締役会議事録の存在について,九電が関電から説明を受けた電力小売価格に関する認識や方針等は,官公庁入札にあたり電力小売価格を決定する際の基礎的かつ経営上重要な情報であるから,九電がこれらを取締役会に上程し協議している蓋然性が高いとして,そうした取締役会議事録の存在を認めました。
その上で,福岡地裁決定は,取締役会議事録記載の情報は,カルテルの基礎となる情報等を九電の取締役会がどのように認識し検討していたかなどを示すものとして,株主が九電の取締役らの責任追及を行うにあたって有用なものであるから,これらを閲覧謄写することが,株主の権利行使のために必要だと認められると判断しました。
また,九電が最も強く争った課徴金減免申請を行うにあたって取締役会で検討した内容に関する議事録について,福岡地裁決定は,九電内部における様々な時点でのカルテル合意の存在を基礎づける周辺情報を含む蓋然性が高い上,そういった情報についての取締役らの認識を明らかにするものであり,カルテルについて直接証拠がない中で,株主がカルテル合意の存在や取締役らの責任を立証にするにあたって重要性を有するとして,株主の権利行使の必要性を認めた上で,企業秘密やプライバシー情報が含まれるから著しい損害を及ぼすおそれがあることや取締役会議事録が責任追及の資料に使われると課徴金減免制度の利用に萎縮効果が生じるなどという九電の主張に対しては,いずれも具体性がないと一蹴しました。
私たちの申立てをほぼ全面的に認めた福岡地裁決定は,証拠が構造的に偏在している株主代表訴訟のための請求であること,さらに本件は,違法なカルテル合意は黙示的になされた可能性が高く,直接証拠がない中でカルテル合意の存在を立証する必要がある事案であることを的確に捉え,株主の権利行使の必要性を実質的に判断したとても素晴らしい決定であり,裁判所には敬意を表したいと思います。
なお,この福岡地裁決定に対し,九電は不服であるとして,4月15日,福岡高裁に対し,即時抗告を申立てました。このため,取締役会議事録の閲覧謄写までは,今しばらく時間がかかりそうです。
電力カルテルの闇を明らかにする闘いは,少しずつではありますが,しかし確実に前に進んでいますので,引き続き皆様のご支援をよろしくお願いいたします!