刑事裁判の量刑について少し考える
2026年あけましておめでとうございます
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事務所所属の弁護士8人が、法律問題や社会問題あるいはお勧めの本など様々なテーマに関する解説やコラム、エッセイなどを毎週週替わりで執筆する「弁護士記事」のコーナーは2022(令和4)年8月にスタートし、好評につき3年半が経過しましたが、本年も継続しますのでどうぞよろしくお願いいたします。
今年最初の「弁護士記事」は、刑事裁判の量刑についての話です。
量刑とは
刑事裁判において、被告人に有罪判決を言い渡す場合、「被告人を懲役5年に処する」とか「被告人を罰金40万円に処する」といった判決が宣告されますが、こうした宣告する刑の種類(死刑や懲役刑、罰金刑など)や重さ(期間や金額など)を決めることを量刑といいます。
| *ちなみに2025(令和7)年6月1日に施行された刑法改正により刑の種類の一部が変更され、これまでの「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、新たに「拘禁刑」として一本化されましたが、「拘禁刑」は、この施行日である昨年6月1日以降に行われた犯罪にだけ適用されるため、それ以前に行われた犯罪には、引き続き「懲役刑」や「禁錮刑」が適用されます。 |
量刑は、被告人が罪に問われている犯罪ごとに刑法などで定められた刑(法定刑といいます)に、法律上の減軽(自首や犯罪の中止など)や情状酌量による減軽などを適用して言い渡し可能な範囲の刑(処断刑といいます)を決め、裁判官は、この処断刑の範囲内において、自由に判決で宣告する刑を決めることができます。
もっとも、裁判官が自由に量刑を決められるといっても、同じ犯罪をしたのに全国各地の裁判所ごとに量刑が大きく異なるようであれば、結果が不公平ではないか、たまたま当たった裁判官の巡り合わせで宣告刑が大きく変わるのは法的安定性に欠けるのではないかといった問題があることから、裁判官は、同じような罪名、同じような犯行態様や被害結果であれば、ある程度同じような量刑をする傾向にあります。
こうしたことから、実務上は、罪名や犯行態様、被害結果などによって、量刑にはおおよその目安や枠、幅があるとされています。これを「量刑相場」といいます。
ただし、量刑相場があるとはいえ、実際の刑事事件は一つとして全く同じ事件は存在していませんし、裁判は、人間である裁判官が被告人を裁くのですから、やはり個別具体的な事情を考慮して、事件ごとに一定の量刑のばらつきがあることはむしろ自然なことであり、だからこそ我々弁護士も刑事弁護人として弁護活動をする意義や醍醐味があるのです。
一般的な量刑の決め方
それでは、量刑は一般的にどのように決められるのでしょうか。
最高裁の基本的な考え方を簡単に説明すると、量刑判断において重視すべきなのは、被告人がどのような行為を行ったのかに着目し量刑の枠や幅を決める「行為責任の原則」という考え方です。
具体的には、まず「犯行そのものに関する量刑の事情」として、①犯行の動機、計画性(動機が身勝手か理由のあるものか、犯行が計画的か偶発的か)②犯行の手段、方法、態様(凶器の有無、単独犯か共犯か、共犯事件の場合の役割、犯行の部位や回数、残虐性の有無など)、③犯行の結果(被害結果の大小、程度、数量、被害弁償の有無など)といった点に着目し、こうした各要素から事件の類型を見極めます。
次に「犯行以外に関する量刑の事情」として、④被告人の性格や職業(反社会性、常習性、粗暴性、定職の有無など)、⑤前科・前歴(特に同種前科の有無)、⑥反省と自白(反省の態度の有無や事実関係を認めているか)、⑦社会の処罰感情、社会的制裁、社会的影響(社会的制裁とは長期間の勾留による身体拘束、職場の解雇、役職の解任、信用失墜などの不利益を受けること)、⑧被告人の健康状態や指導監督者の有無、被害感情などを考慮しますが、最高裁は、あくまでも「被告人の前科や反省の度合い、被害感情などは刑罰を決める上で副次的なもの」だとしています。
つまり、被告人の量刑を決める上で決定的に重視されるのは、行為責任の原則から、①から③のような被告人が実際に行った犯罪そのものに関する事情である「犯情」であって、④から⑧のような被告人に関する事情である「一般情状」は、量刑上考慮される程度に限界があるとされています。
量刑は果たして適切か
以上のような一般的な量刑の決め方自体は理屈的にある程度納得できますが、さりとて、個別具体的な刑事事件の弁護活動を実際にやっていると、この判決の量刑はさすがに厳しすぎないか、もう少し人間味や柔軟性があってもいいのではないかという事案に出会うこともしばしばあります。
実際に私が昨年弁護人を務めた刑事事件の一部だけを取り上げてみても、量刑に疑問を抱く以下のようなケースがありました。
県立高校の30代の男性教諭が居眠り運転で交通事故を起こし、同乗者の自分の子どもが大けがをして重い後遺症が残ったという事案では、公務員は禁錮刑以上の刑に処せられた場合、たとえ執行猶予が付いたとしても法律上自動的に失職することになるため、被害を受けた家族は強い処罰を望まず、被告人は勤務態度がまじめで職場の上司や同僚、生徒らから慕われていたことから,上司や同僚多数が寛大な処分を嘆願し、弁護人としても何とか罰金刑にしてほしいと強く訴えました。
しかし、裁判官は、被告人の過失は重大だし、被害結果も重大であるとしたうえで、被告人の反省や家族の処罰感情、職場の嘆願、被告人の失職などの事情は一般情状であり量刑上考慮しうる程度にも限りがあるから罰金刑は選択できないとして、執行猶予3年の付いた禁錮刑を言い渡しました。
その後の控訴審でも控訴が棄却され判決が確定したため、被告人は天職だった教職を失職することになり、被害者であるはずの家族自身が、経済的にはもちろん精神的にも大きな打撃を受ける結果になりました。誰のための裁判なのか考えさせられる事案でした。
また、23歳の若者が、大麻の所持で執行猶予中に再び大麻を共同所持したという事案では、被告人の関与が主導とは認められないし、被告人の反省や薬物治療の意向、両親の指導監督もあるとしながらも、情状に特に酌量すべき事情があるとはいえず再度の執行猶予が相当な事案とはいえないとして、裁判官は、実刑判決を言い渡しました。
前刑の執行猶予取消しと合わせると2年以上刑務所に行くことになりましたが、弁護人としては、行為責任の原則からしても、そこまで厳罰にする必要があるのか、もう一度だけ社会内で更生するラストチャンスを与えてもいいのではないかと疑問に思う事案でした。
最後に、少し観点は違いますが、バールを手に持って脅迫した暴力行為等処罰に関する法律違反の罪に問われた50代の男性の事案では、検察側の罰金20万円の求刑に対し、弁護人からあえて執行猶予付きの拘禁刑を求めました。
その理由は、被告人は生活保護受給者であり、仮に罰金刑となれば罰金を支払うことができず、結果として労役場留置(罰金の判決を受けた人が、その支払いができない場合に、罰金相当額に相当する期間強制的に労役に服するための施設に留置されることで、一般に1日あたりの労役が5000円と換算される)になるが、それは短い期間(罰金20万円であれば40日間服役)とはいえ実刑に処せられることに等しいからです。
しかし、裁判官は、「弁護人の主張は理解できないでもないが、この種の事案の量刑傾向からすれば、より重い拘禁刑を選択することは相当でない」として求刑どおりの罰金刑を言い渡しました。
この裁判官は、まさに「量刑相場」を意識しただけであって、本件の個別事情を踏まえた場合、罰金刑の方が実質的には「より重い」のではないかと思いますが、皆さんはどう考えますか。
起訴される刑事裁判のうち,事実関係を争う否認事件も多数ありますが,事実関係を認める自白事件が全体の約9割に上っていて,そうした自白事件では,まさに量刑がどうなるかが最大の関心事であり,弁護士が早い段階からつくことで量刑を大きく減らすことができる場合もあります。
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