弁護士記事

2025年12月31日(水)

お客様は神様、ではありません。

「お客様は神様です」の真意

 お客様は、とても大切な存在ですが、支配者ではありません。主従関係でもありませんし、ましてや奴隷関係でもありません。

 商人(サービス提供者)とお客様の関係は、対等な契約関係です。

 このあたり前のことが、時に忘れられてトラブルになることがあります。

 最近では、カスタマーハラスメントと言われるようになりました。

 昔、歌手の三波春夫さんが、歌唱中に「お客様は神様です」と語っていたことで、この言葉は有名になりました。

 「神様」という言葉が独り歩きしてしまったのです。

 三波春夫さんはこの真意について説明しており、公式ホームページには次のように記載されています。

https://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html

 『歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。ですからお客様は絶対者、神様なのです』

 お客様は「神様」だから「偉い」というようなニュアンスは一切ありません。あくまでも自分自身を律する存在として、お客様を敬う心持ちを表現したものでした。

「神様」の意味合い

 三波春夫さんが表現した「神様」は、多神教の日本的文化を背景にした言葉のようにも思えます。「神様」というのは、絶対的な支配者ではなく、感謝し、大切にすべき対象という意味合いになるのではないでしょうか。

 ところが、いわゆるカスタマーハラスメントの加害者は、この「神様」という言葉を、一神教的な「絶対的支配者」という意味と曲解し、自分に従うことを求めてきます。そして、自分に従わないことは、神に背く行為であるため、その過ちを正してやろうというゆがんだ正義感をもってさらなるハラスメント行為に及ぶことになる、このように感じます。

カスタマーハラスメントの典型例

カスタマーハラスメントという言葉が生まれる前には、モンスタークレーマーという言葉がありました。

大きく報道された事件には、例えば次のようなものがあります。

2013年9月、服飾店土下座強要事件。

2014年9月、コンビニ土下座強要事件。

いずれの事件も来店客(?)が、店舗の責任者等に土下座を求め、土下座する姿を写真(動画)撮影した上で、自らインターネット上に公開したという事件でした。

この両事件の加害者は、強要罪や恐喝罪等の疑いで逮捕されました。

この頃から、お客様の要求に応えるだけの対応ではなく、不当要求に対しては毅然と拒否する姿勢を示すべきではないか、警察ももっと強く介入するべきではないかという議論が高まっていきました。

カスタマーハラスメント防止法

 カスタマーハラスメントというべき事件が起こるたびに個別の対策は進んでいきましたが、ここにきて法律面でも大きな前進がありました。

 2025年6月、労働施策総合推進法(正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)が改正され、職場におけるカスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置を講じる義務が事業者に課せられることになりました。

 この法律は、労働者保護の側面からカスタマーハラスメントの予防、対策を図るというものといえます。

 この法改正を受けて、今後、多くの企業で、「カスハラ対策マニュアル」の策定や、カスハラ対策の強化が進められると思われます。また、警察によるカスハラ対応の強化も期待されます。

 この法改正で状況が劇的に変わるわけではないでしょうが、カスタマーハラスメントは許されないというイメージが強化されることで、社会全体としてもカスハラ防止対策がより一層前進することが期待されるところです。

カスタマーハラスメントは犯罪になり得ます

 上記のカスハラ防止法は、顧客側を取り締まる法律ではありません。いわば、事業者側に、カスハラ顧客は相手にしなくてよい、というお墨付きを与えるものです。

 もっとも、カスハラ顧客を止めようがないというわけではありません。カスハラ顧客については、現在でも、次のような犯罪が成立する可能性があります。

具体的な行為と犯罪例

「土下座しろ」「謝罪に来い」「お詫びに仕事を辞めろ」

  ➢強要罪(刑法223条。3年以下の懲役)

「殺すぞ」「ネットにさらされたくなかったらいうことを聞け」

  ➢脅迫罪(刑法222条。2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)

大声で怒鳴って業務を止めさせる

  ➢威力業務妨害罪(刑法234条。3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)

長時間居座って帰らない

  ➢不退去罪(刑法130条。3年以下の懲役玉は10万円以下の罰金)

人格を否定する暴言を言う

  ➢侮辱罪(刑法231条。1年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料)

 「お客様は神様です」という言葉を都合よく解釈して悪用するのではなく、相互に尊敬しあって、良好な関係を築くことを心掛けましょう。

よいお年をお迎えください。

 本投稿が2025年最後の投稿となります。

 皆さま、2025年中はたいへんお世話になりました。誠にありがとうございました。

 2026年も引き続き、よろしくお願い申し上げます。

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弁護士紹介星野 圭

星野圭 弁護士

弁護士登録:2008年

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