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弁護士記事星野 圭:その他

2026年7月10日(金)

借家退去時の原状回復義務は争う余地あり

星野 圭

福岡第一法律事務所は7月末に移転します

 追って正式なお知らせを予定していますが、福岡第一法律事務所は、本年7月に現在の事務所から新事務所に移転します。

 新しい住所は、福岡市中央区赤坂1丁目13番35号 OZUビル赤坂6階です。1階に吉野家さん、2階にコメダ珈琲店さんが入っている新築ビルです。電話番号、FAX番号の変更はありません。

 心機一転よろしくお願いいたします。

借家退去時の原状回復義務は争える

 さて、ご存じのとおり、賃借物件からの引っ越しは、法律問題の詰め合わせボックスです。

 多くの方が、「仕方ないかあ・・・」で済ませていることでも、実は重要な法律問題がひそんでいることがよくあります。

 借主視点でも、家主(貸主)視点でもそれぞれ多様な問題がありますので、すべてを紹介することはできませんが、今回は、原状回復義務に関する論点のひとつを紹介します。

 なお、賃借物件の退去、引っ越しに関しては、借主側でも家主側でもいろいろな法的リスクがありますので、何か疑問に思ったら、弁護士に相談いただいた方が無難です。問題の所在も、解決方法も、事案によって異なりますので、ぜひご相談ください。

原状回復義務と敷金の返還

  「高額な原状回復費用を請求された。」

 原状回復義務に関するトラブルは多いですが、実は、原状回復に関しては家主側の請求に問題がある事例もよく見られます。

 一般論としては、故意、過失による損傷は借主負担ですが、経年劣化や通常の使用による損耗は家主負担とされます。

 賃借物件に関する原状回復については、国土交通省が、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表していますので、これが非常に有用です。

 このガイドラインに照らして考えると、家主側の請求が過大ではないかと疑われる事案も少なくありません。ぜひ参考にされてください。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

「退去時に敷金が返ってこない。」

 敷金については、敷引特約があるか否かが重要です。敷引特約がない場合には、敷金は戻されるのが原則です。

 敷金から原状回復費用をどこまで引くことができるかという問題は、上記の国土交通省ガイドラインに沿って検討されることになるでしょう。

 一方で、敷引特約は、無条件ではないですが多くの場合有効とされる可能性が高いです。この点で、家主側にとっては原状回復義務に関する争いを避けられるメリットがありますし、借主側にとっては原状回復義務に関する争いの余地が少なくなるデメリットがありますので注意しなければならないといえます。

【今回の参考判例】

【敷金返還等請求事件】最高一小判平成23年3月24日最高裁判所民事判例集65巻2号903頁

「賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は、賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている。そして、通常損耗等の補修費用は、賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても、これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には、その反面において、上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。また、上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえず、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。
 もっとも、消費者契約である賃貸借契約においては、賃借人は、通常、自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上、賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると、敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には、賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に、賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。
 そうすると、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。