身近な存在になったAI
現在、多くの方がいろいろな場面でAIを活用していると思います。
弁護士業界でも、いまやAIの活用はあたり前の状況になりつつあります。
AIのつくる法律文書は、弁護士の目から見ればまだまだ不十分な内容ですが、とはいえ、それなりに有用な場面もあります。
今回は、もし、AIを使って内容証明郵便の案文をつくってみようと考えた場合に、どのようなプロンプト(指示文)を入力すると良いか、ひとつの案をご紹介したいと思います。
AIの種類や性能の違いによって、AIが作成する案文の内容や質も大きく異なりますが、あくまでもひとつの参考としてみてください。
簡単すぎる入力
最初に、ありがちな簡単すぎる入力の場合で、例えば次のようなプロンプトを入力した場合を紹介します。
「不貞行為の慰謝料請求をしたいときの内容証明案をつくって」
今回利用したGeminiのFlash版では、次のような回答がありました。
不貞行為(不倫)に対する慰謝料請求を行う際の内容証明郵便の文面案を作成しました。状況に合わせてカッコ記号 [ ] の部分をご自身の情報に書き換えてご活用ください。
内容証明郵便(案)
通知書
当職(※1)は、通知人〇〇 〇〇(以下「通知人」といいます)から代理人として委任を受け、被通知人に対し、以下の通り通知いたします。
1. 事実関係
通知人は、〇〇 〇〇(以下「通知人配偶者」といいます)と婚姻関係にあり、平和な婚姻生活を送っておりました。 しかしながら、被通知人は、通知人配偶者が既婚者であることを知りながら、あるいは過失により知り得たにもかかわらず、〇年〇月頃から〇年〇月頃までの間、通知人配偶者と継続的に肉体関係(不貞行為)を有しておりました。
2. 損害賠償の請求
被通知人の上記不貞行為は、通知人の婚姻生活の平和を不当に侵害する不法行為(民法第709条および第710条)に該当します。 被通知人の不貞行為により、通知人が受けた精神的苦痛は計り知れず、到底看過できるものではありません。
つきましては、通知人は被通知人に対し、不貞行為に基づく精神的苦痛に対する慰謝料として、金〇〇〇万円を請求いたします。
3. 支払方法および期日
本書面到着後、〇日以内(※2)に、下記の口座へ上記金額をお振込みいただけますよう請求いたします。
- 金融機関名:〇〇銀行
- 支店名:〇〇支店
- 口座種別:普通預金
- 口座番号:〇〇〇〇〇〇〇
- 口座名義:〇〇 〇〇(カタカナ)
4. 今後の対応について
万一、上記期限内に誠意あるご回答および指定口座への入金がなされない場合、または本請求に対して真摯な対応をいただけない場合には、予告なく法的措置(損害賠償請求訴訟の提起等)へ移行する手続きをとることを申し添えます。
なお、今後の本件に関するご連絡やお問い合わせは、通知人本人への直接の連絡(電話、訪問、SNS等)はお控えいただき、書面にてご回答くださいますようお願い申し上げます。
〇年〇月〇日
(通知人情報) 住所:〇〇県〇〇市〇〇 1-2-3 通知人:〇〇 〇〇
(被通知人情報) 住所:〇〇県〇〇市〇〇 4-5-6 被通知人:〇〇 〇〇 殿
プロンプトがかなり大雑把であるにもかかわらず、必要最低限の記載事項でまあまあちゃんとできています。
望ましいプロンプトを聞いてみる
では、上記の案文をさらに弁護士っぽくつくらせるために、プロンプトを改良したいという場合、どのようなプロンプトを入力するとよいでしょうか。
プロンプトは、一般的に、次の内容を盛り込むべきとされます。
役割 「あなたは〇〇です」と立場を指示
背景 状況、目的、文書の対象者などを指示
出力形式 まとめ方の指定、箇条書きや文字数など答え方を指定する
ただ、これを覚える必要はありません。どのようなプロンプトにすべきかをAIに確認するという方法があります。
例えば、次のように質問します。
「あなたは弁護士です。不貞行為の慰謝料請求をする内容証明をあなたに作ってもらうときに、どのようなプロンプトを入力するのが良いか教えて。」
すると、次の回答がありました。
私に状況にぴったりの精度が高い内容証明案を作成させるためには、「必須事実」「請求内容」「交渉の方針や条件」の3点を盛り込んだプロンプトを入力していただくのが一番確実です。
以下のテンプレートのカッコ内を埋めてそのままプロンプトとして入力してください。
内容証明作成用プロンプト・テンプレート
以下の条件をもとに、不貞行為(不倫)の慰謝料請求を行うための内容証明郵便の文案を作成してください。
【当事者情報】
・通知人(自分):[氏名 / 住所]
・配偶者:[氏名]
・被通知人(不倫相手):[氏名 / 住所]
【事実関係】
・婚姻期間:[例:5年 / 2020年から結婚]
・不貞期間:[例:2024年3月頃〜2025年11月頃まで]
・既婚であることの認識:[例:社内恋愛のため既婚と知っていた / マッチングアプリだが既婚と打ち明けていた]
・夫婦関係への影響:[例:現在別居中・離婚協議中 / 離婚はせず再構築予定]
・子ども:[例:未成年の子どもが1人いる / なし]
【請求条件】
・請求金額:[例:300万円]
・支払期限:[例:本書面到着後10日以内]
・振込先口座:[銀行名・支店名・口座番号・名義]
【追加の要望・条件】
・配偶者との今後の一切の接触禁止を求めたい
・自分への直接連絡(訪問・電話・SNS等)の禁止を求めたい
・回答期限までに対応がない場合は法的措置(裁判・差押え等)をとる旨を強調したい
・[その他、伝えたい条件があれば記載]
【トーン&マナー】
・感情的にならず、弁護士が作成したような冷静かつ厳格なトーンで作成してください。
プロンプト作成時のポイント
- わからない部分は空欄でOK 相手の住所が不明な場合や、振込口座をまだ記載したくない場合は「〇〇(後で記入)」と書いていただければ、その部分を空欄にしたテンプレートを作成します。
- 離婚するかどうか(夫婦関係への影響)が一番重要 「離婚する(または別居)」か「離婚しない(再構築)」かによって、請求金額の相場や文面のニュアンス(相手に配偶者と二度と会わないよう求める強さなど)が変わるため、ここを書いていただくとより実践的な文面になります。
- 証拠の内容はプロンプトに書かなくて大丈夫です 「LINEのやり取りがある」「ホテルに入る写真がある」といった具体的な証拠の中身は、内容証明の文面自体には詳しく書かないのが鉄則であるため、プロンプトに細かく入力いただく必要はありません。
ここまでくると、さすがにすごいなと思います。
具体的な案文までは作成していませんが、おそらく、それなりにしっかりしたものが出てくるでしょう。
どのような情報が必要かという情報の取捨選択の判断およびその聴き取り能力についてはいまだ人間に優位性があると思いますが、書面作成に限ってみれば、弁護士の仕事も安穏とはしていられません。
AI活用の注意点
一方で、AIを活用して文書を作成、発信する際には、注意しなければならない点もあります。
➀ 間違いや嘘がある
よく言われることですが、AIが作成する文書には、間違いや嘘が含まれることが多いです。法律文書のような専門的な書面になればなるほど、間違いや嘘が目立ちます。
ですので、AIが作成した文書を決して鵜吞みにしてはいけません。あくまでもひとつの案としてみた上で、その内容が正しいかどうかは別途調べる必要があるでしょう。
法律文書の場合、AIが、条文、判例(裁判例)や法律文献を引用してくることがありますが、それもまったく間違っていることがよく見られます。ご注意ください。
➁ 学習に利用される
AIに入力した情報は、AIの学習に利用されて、他の人がAIに質問した際の回答に利用されてしまうことがあります。どのように利用されるのか、ユーザーにとってはまったくわかりません。
一応、AIの設定によって学習機能をオフにすることができる場合が多いですが、実際にはどのように処理されているのかは不明です。
そのため、AIに対し、個人情報を入力するのは十分に注意する必要があります。
上記の不貞慰謝料の内容証明案の作成に関しても、実際の個人情報を入力して案文を作成させた場合、その個人情報がAIに取り込まれることになります。AIに入力する場合には、ダミー情報を使うなど工夫が必要だと思います。
これからの時代、AIは基礎的なインフラのひとつになると予想されます。使い方を知り、注意点を知ることは、どのような場面でも重要になってくるだろうと思います。