河西龍介 弁護士記事

2025年4月22日(火)

被相続人の預貯金はどうやって引き出すの? ―被相続人名義の口座の取扱いについて

第1 はじめに

 相続の際に被相続人名義の口座があった場合、どのように対応したらいいのでしょうか。今回は、被相続人の口座にある預貯金の取扱い等についてお話したいと思います。

第2 金融機関による口座の凍結

 口座の名義人が死亡した場合、名義人の死亡が銀行などの金融機関に伝わると口座は凍結されます。つまり、名義人が死亡しただけで直ちに凍結されるわけではありません。通常は親族などの相続人が金融機関へ連絡することで凍結されます。他にも新聞の訃報欄などから情報を得て家族へ確認の連絡がいくこともあります。

第3 口座からの引き出し

1 口座凍結前に資金を引き出す場合の注意点

 名義人の死亡によって直ちに口座が凍結されるわけではありませんので、名義人が死亡した後であっても、口座が凍結される前に預貯金を引き出すことは可能です。もっとも、預貯金を引き出す場合には以下の2つに注意する必要があります。
 1つ目は、他の共同相続人との間でトラブルになるおそれがあることです。被相続人の預貯金は遺産分割の対象ですから、勝手に下ろして使うことは本来許されません。共同相続人から返還請求や損害賠償請求の裁判を提起されることがあります。
 2つ目は、相続放棄ができなくなる場合があることです。仮に遺産から引き出したお金を自分のために使ってしまうと、民法上相続を単純承認したことになります。後日、被相続人に借金などのマイナスの財産があることが判明した場合に、相続放棄しようと思っても出来なくなってしまうことがあります。

2 口座凍結後は引き出すことはできないのか
⑴ 仮払い制度

 被相続人の口座凍結後には絶対に預貯金を引き出すことはできないのでしょうか。本来であれば所定の手続きを行い、口座凍結を解除することが必要です。
 もっとも、名義人死亡による口座凍結の場合には、預貯金の仮払い制度を活用することで一部の預貯金を引き出すことが可能となりました。預貯金の仮払い制度とは、被相続人の預貯金について、遺産分割前でも相続人一人からの請求で、一定金額を上限とし、銀行から仮払いを受けることを可能とする新制度のことです。
 方法としては、金融機関で直接手続きを行う方法と、家庭裁判所で手続きを行う方法があります。

⑵ 金融機関で直接手続きを行う方法

 この方法は、直接金融機関とのやり取りだけで手続きを進められますが、引き出せる金額に制限があり、「相続開始時の預貯金残高×1/3×仮払いを求める相続人の法定相続分」が引き出せる金額になります。但し、1つの金融機関で引き出せる額は150万円という上限もあり、これらの金額のうち低い額が上限となります。
 この方法のメリットは、手続が簡易であり費用もかからないという点にありますが、デメリットとしては、上記の様に引き出せる金額に上限がある点が挙げられます。

⑶ 家庭裁判所で手続きを行う方法

 この方法は、家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申立てすることを前提としたうえで、預貯金の仮払い申立手続きを行い、家庭裁判所の判断によって、他の共同相続人の利益を侵害しない範囲内で仮払いが認められることになります。
 この方法のメリットは、特に引き出せる金額の上限が定められているわけではないので、金融機関で直接手続きを行う場合よりも多くの金額を引き出せる可能性がある点にあります。デメリットとしては、前提として遺産分割調停や審判の申立をしていることが必要であるため費用や時間がかかる点にあります。

第4 口座凍結の解除に必要な手続き

1 金融機関によって異なることに注意が必要

 名義人の死亡による口座凍結を解除する場合は、まず、遺産を相続人がどのように相続するかを決めることが必要です。また、手続きに必要な書類は相続方法や金融機関によって異なります。以下では一般的な金融機関の例を提示いたしますが、必要な書類等については各金融機関にお問合せ下さい。

2 遺言書や遺産分割協議書がない共同相続の場合

・戸籍謄本
 口座名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
 法定相続人を確認できるすべての戸籍謄本
・印鑑証明書
 法定相続人全員分
・通帳
 証書、キャッシュカード、貸金庫の鍵なども含む

3 遺産分割協議書がある場合

・遺産分割協議書
 資産を誰が受け取るか明確に記載された書類の原本
・戸籍謄本
 口座名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
 法定相続人を確認できるすべての戸籍謄本
・印鑑証明書
 法定相続人全員分
・通帳
 証書、キャッシュカード、貸金庫の鍵なども含む

4 遺言書がある場合

・遺言書
 資産の分割割合や承継人が明確に記載された遺言書の原本
・家庭裁判所の検認済証明書
 遺言書の存在と内容を家庭裁判所が確認したことを証明する書類
 但し、公正証書遺言または自筆証書遺言保管制度を利用している場合は不要
・戸籍謄本
 口座名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
 法定相続人を確認できるすべての戸籍謄本
・印鑑証明書
 法定相続人全員分
・通帳
 証書、キャッシュカード、貸金庫の鍵なども含む

第5 最後に

 確かに、所定の手続き(名義人死亡による口座凍結→口座凍結解除)を経ず被相続人の預貯金を引き出しても罪に問われる可能性は低く、口座凍結前に預貯金を引き出すことは可能です。
 しかし、共同相続人間のトラブル等を避けるためには、出来る限り所定の手続きを経て被相続人の預貯金を引き出すことをおすすめいたします。また、口座凍結を解除する前にどうしても被相続人の預貯金を引き出す必要がある場合は、仮払い制度を利用することができます。

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弁護士紹介河西 龍介

河西龍介 弁護士

弁護士登録:2019年

大型書店や不動産鑑定評価・補償コンサルタント会社での勤務を経て、弁護士になりました。自分の経験も活かしながら、皆様の日々の生活が少しでも楽しく豊かなものになるような活動を心がけています。