毛利倫 弁護士記事

2024年1月15日(月)

刑事事件は時間との闘いである~身体拘束からの解放を目指す弁護活動~

1 はじめに

 時に,刑事事件は時間との闘いである。

 突然,ある事件で逮捕された場合,その後の刑事手続の流れを十分理解した弁護士をできるだけ早期につけ,適時のタイミングで法的手続をとることで,身体拘束から早期に解放される可能性が高まる。
 私もこの年末は,ある刑事事件の弁護人として,時間との勝負となる刑事手続に関わった。
 今年最初の当事務所の弁護士記事は,刑事事件における身体拘束に関する手続と,その解放に向けて弁護士が取り得る手段について,架空の事件を題材にして,時間の流れに沿って概観する。

2 逮捕されたら,その後どうなっていくのか

①逮捕後の警察による身体拘束期間は48時間である

 福岡市内に住むAさんは,2023年12月6日午前7時頃,自宅でまだ寝ていると,突然尋ねてきた福岡県警察本部の警察官から,裁判官が発付した逮捕状を示され,その場で逮捕された(通常逮捕)。
 必要最低限の所持品を手にしたAさんは,福岡中央警察署に連行され,同署において,弁護人を選任できることを告げられた上で,担当の刑事から取調べを受けた。
 Aさんのように,捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられている立場の者は,刑事訴訟法(以下「刑訴法」という)上,「被疑者」と呼ばれる(マスコミ報道では一般的に「容疑者」と表現される)。
 Aさんは,警察に対し,すぐに知り合いの弁護士を弁護人に選任したいと申し出て,当日中に同弁護士がAさんに接見し,弁護人に選任された。
 Aさんを逮捕した警察は,Aさんを引き続き留置する必要があると考えた場合,Aさんを逮捕した時から48時間以内に,必要な書類や証拠とともにAさんを検察官に送致する手続をしなければならない(この手続を「送検」という)。
 すなわち,警察が逮捕によって被疑者の身体拘束をできる時間は最大48時間(丸二日間)であり,48時間以内に送検をしない場合,被疑者を直ちに釈放しなければならない(刑訴法203条)。

【弁護人の取り得る対応】

 この時点において,弁護人は,警察に対し,被疑者を釈放して在宅事件として捜査をするよう申し入れることはできるが,そもそもあらかじめ取得した逮捕状で逮捕に踏み切った場合,この逮捕後48時間以内に被疑者が釈放される可能性はほぼゼロと考えた方がいい(微罪は除く)。

②送検後の検察官による身体拘束期間は24時間である

 警察は,Aさんを逮捕してから30時間後の12月7日午後1時,引き続き留置する必要があるとして,Aさんを必要な書類や証拠とともに福岡地方検察庁刑事部の検察官に送致した。
 送検後,Aさんは,担当の検察官から,逮捕後の警察による取調べ時と同様の基本的な取調べを受けた。
 Aさんの送致を受けた検察官は,Aさんを引き続き留置する必要があると考えた場合,送検時から24時間以内(逮捕時からの通算は72時間以内)に,裁判官に対し,Aさんの勾留(こうりゅう)を請求しなければならない(この手続を「勾留請求」という)。
 すなわち,検察官が逮捕後の被疑者の身体拘束をできる時間は送検後24時間,逮捕時から通算すると最大72時間(丸三日間)であり,この時間内に被疑者の勾留請求をしない場合,被疑者を直ちに釈放しなければならない(刑訴法205条)。

【弁護人の取り得る対応】

 この時点において,弁護人は,まず検察官に対し,被疑者の勾留請求をせず,釈放して在宅事件として捜査を続けるよう意見書を提出するか,少なくとも口頭で申し入れをすることになる。
 もっとも,検察官が勾留請求をしないことは通常ほとんどなく,検察統計年報によれば,2022年の勾留請求率(逮捕された被疑者のうち検察官が勾留請求をした割合)は93.9%であり,勾留請求をしないのは,被疑者100人のうちわずか6人程度である。
 そこで,弁護人としては,検察官が勾留請求した場合に備えて,直ちに勾留質問を担当する裁判官に対し,「勾留請求却下を求める意見書」を提出する準備をすることとなる。

③裁判官の勾留質問と勾留決定による身体拘束期間は10日間である

 検察官は,Aさんの送検を受けてから21時間後の12月8日午前10時,引き続き留置する必要があるとして,福岡地方裁判所の裁判官に対し,Aさんの勾留を請求した。
 勾留が認められるためには,勾留の理由と勾留の必要性が要件となる。
 勾留の理由とは,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることを大前提とした上で,被疑者が定まった住居を有しないときか,罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときか,逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときのいずれかに該当する場合をいう。
 また,勾留の必要性は,様々な考慮要素があり得るが,一般的には,事件の内容や証拠収集の困難性等を踏まえた勾留による捜査目的を達成する利益と,勾留されることによって被疑者が受ける不利益(仕事,家族,重要な用事,健康等)を比較して勾留の相当性がある場合をいう。

 12月8日午後4時から,福岡地裁でAさんの勾留質問が行われ,この日の勾留担当の裁判官から,Aさんに対して被疑事実について質問された。
 Aさんの弁護人は,同日午前に「勾留請求却下を求める意見書」を提出した上で,勾留質問の直前,担当裁判官と直接面談し,勾留請求却下を強く求めていたが,裁判官は,罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれがあるとして,Aさんの勾留を決定し,Aさんは引き続き福岡中央警察署で留置されることとなった(刑訴法207条,60条)。
 勾留の期間は,検察官が勾留を請求した日から10日間であり,Aさんの勾留期間は,12月8日から12月17日までである。
 すなわち,被疑者を勾留した事件について,勾留の請求をした日から10日以内に検察官が公訴を提起(刑事裁判にかけるこの手続を「起訴」という。)しないとき,検察官は,直ちに被疑者を釈放しなければならない(刑訴法208条1項)。

【弁護人の取り得る対応】

 この時点において,弁護人は,「勾留請求却下を求める意見書」を提出し,裁判官に勾留請求を却下するよう求めることがとても重要であるが,検察統計年報によれば,2022年の勾留請求却下率(検察官が勾留請求した被疑者のうち裁判官が勾留請求を却下した割合)は3.8%と,被疑者100人のうちわずか4人にも満たない割合しか勾留請求が却下されない極めて狭き門であり,私自身も,これまで勾留請求却下を勝ち取った経験は2回しかない。
 勾留決定がされた場合,弁護人は,この裁判官の勾留決定に対する不服申立て手続をとることができ(この手続を「準抗告」という),弁護人による勾留決定に対する準抗告が認められた場合,被疑者は釈放されることになる。
 私も勾留決定に対する準抗告を申立てたことがあるが,この段階の準抗告もそう簡単には認められない場合が多い。

④勾留はさらに10日間延長されることも多い

 検察官は,Aさんについて,捜査が未了であり引き続き勾留するやむを得ない事由があるとして,12月17日,福岡地方裁判所の裁判官に対し,10日間の勾留延長を請求した。
 すなわち,裁判官は,やむを得ない事由があると認めるときは,検察官の請求により,勾留の期間を最大10日間延長することができる(刑訴法208条2項)。
 検察統計年報によれば,2022年に検察官が勾留延長を請求した割合は69.7%であり,実務的には,勾留延長請求がされる事件が約7割を占めている。
 弁護人は,同日,裁判官に対し,「勾留延長請求却下を求める意見書」を提出したが,裁判官は,捜査未了であり勾留延長に理由があるとして,Aさんについて,翌12月18日から12月27日までのさらに10日間(当初の勾留から通算して合計20日間)の勾留延長を決定した。

【弁護人の取り得る対応】

 弁護人は,検察官に対し,勾留延長をせず10日間の勾留で終局処分を決めるよう意見書等で前もって申入れることが必要であるが,検察官から勾留延長請求がされた場合,裁判官に対し,「勾留延長請求却下を求める意見書」を提出し,裁判官に勾留延長請求却下を求めることが重要である。
 それでも裁判官が勾留延長を決定した場合,弁護人は,直ちに勾留延長に対する準抗告を申立てることができる。
 この勾留延長に対する準抗告は,最初の勾留決定に対する準抗告に比べれば認められやすいと個人的には感じていて,私自身これまで勾留延長に対する準抗告を申立て,勾留延長の取り消しや延長期間の短縮が認められたケースが6回ある。
 もっとも,検察統計年報によれば,2022年の勾留延長却下率はわずか0.3%であり,勾留延長を阻止するのも至難の業である。

⑤起訴された場合,勾留はさらに継続することになる

 弁護人は,裁判官に対し,勾留延長に対する準抗告を申立てたが認められず,Aさんは,12月27日まで20日間勾留され,勾留満期日の同日,検察官によって起訴された。
 Aさんのように,検察官により起訴され刑事裁判にかけられた立場の者は,刑訴法上,「被告人」と呼ばれる(マスコミ報道では一般的に「被告」と表現される)。
 検察官により被疑者が起訴されて被告人となると,勾留は起訴時点からさらに2か月間延長され,その後も罪証隠滅のおそれがあると判断されれば,1か月ごとに更新されていくので,実際には起訴されると,保釈が許可されない限り,被告人は刑事裁判が終わるまで勾留が継続することになる(刑訴法60条)

【弁護人の取り得る対応】

 そこで,被疑者が起訴され被告人となった場合,被告人を釈放させるためには,裁判官に保釈を請求し,保釈が認められる必要がある。
 保釈請求は,起訴された直後から行うことができるので,勾留が取り消されないまま起訴される見通しが強い事件では,弁護人は,起訴前から前もって被疑者本人や家族・関係者と密接に打合せをし,保釈請求の準備をすることになる。
 保釈が認められるためには,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがないことに加えて,裁判が終わるまで居住する制限住居があること,家族等の身元引受人がいること,そして裁判官が定めた保釈保証金を用意しなければならない。
 弁護人が保釈請求をすると,保釈請求を受けた裁判官は,検察官の意見を聴かなければならないため,検察官に意見照会をし,その意見を受けて,保釈を許可するかどうか判断することになる。
 裁判官は,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれの有無,身体拘束を解放する必要性などを考慮して保釈の判断をするが,日本弁護士連合会によれば,2021年の第1回公判期日前の保釈率は,被告人が犯罪事実を認めている自白事件でさえ26.3%,被告人が犯罪事実を認めていない否認事件では12.2%であり,日本の刑事司法制度が人質司法と批判されるゆえんである
 なお,保釈請求が却下された場合も,弁護人は,不服申立て手続である準抗告を申立てることができる。

⑥保釈許可決定が出て,Aさんは逮捕から22日ぶりに釈放された

 弁護人は,Aさんが起訴された12月27日,起訴手続後直ちに裁判官に対し,Aさんの保釈の請求をした。
 検察官は,反対意見を述べたが,担当裁判官は,Aさんに罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれは低いと判断し,御用納めの12月28日,Aさんの保釈許可の決定をし,保釈保証金を納付したAさんは,同日,逮捕から22日ぶりに釈放された。

3 最後に

 私も,昨年12月は,たまたまAさんと同じ日程で逮捕・勾留された被疑者の弁護を担当していて,12月27日夕方に起訴された被疑者(被告人)の保釈請求を同日の起訴直後に行った。
 なぜなら,年内の裁判所の業務は12月28日までであり,保釈保証金の入金処理は同日午後3時で締め切られるため,12月27日の起訴直後に保釈請求をしなければ時間的に年内の保釈決定が間に合わず,単に役所の業務の都合によって,年末年始を一人で警察署の留置場で過ごすことになるのはとても可哀想だと思ったからである。
 年末ギリギリまで勾留を引っ張って起訴した検察官は,Aさんのケースと同様,保釈にも反対意見を出したが,担当裁判官は,否認事件であるにもかかわらず,弁護人の主張に理解を示し,保釈を許可してくれたため,被告人は,御用納めの12月28日夕方に福岡市内の警察署を釈放され,同日深夜,関東の実家(制限住居)に帰りつき年末年始を家族とともに過ごすことができた。
 被告人本人とお母さんのうれしそうな感謝の電話を受けると,弁護人としての苦労も少し報われた思いがした。

 こうした刑事事件に巻き込まれないことが一番ですが,もし万が一,警察に逮捕された場合,すぐに当事務所にご相談ください。
 弁護士は,必ず,あなたの力になります!

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弁護士紹介毛利 倫

毛利倫 弁護士

弁護士登録:2006年

弱者救済に取り組む弁護士を目指し、マスコミから転身しました。ともに頑張りましょう!