読書バリアフリー ~誰にでも 分かりやすく読みやすく~
先日、ふくふくプラザで開催された講演会「共生社会への第一歩~誰にでも『分かりやすく』『読みやすく』するためにできること~」に参加してきました。
講師は専修大学障がい学生支援室長・文学部教授の野口武悟さんでした。
- 読書バリアフリーとは
見えづらい、見えるが文字が認知しづらい、わかりづらい、本を持ったりページをめくったりしづらいといった状態を個人の問題とせず、読書環境のバリアととらえて、読書環境を改善する取り組みのことです。
この問題に関心が高まったきっかけとなったのは、2023年に第169回芥川賞を受賞した市川沙央さんの作品『ハンチバック』です。市川さんは先天性ミオパチーで人工呼吸器、電動車いすユーザーです。授賞式では挨拶で、読書バリアフリーについてあらためて環境整備をお願いしたいと述べるとともに、怒りだけで作品を執筆したことを述べておられました。作品の中でも、目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店に自由に買いに行けることという健常性を満たすことを強いる読書環境への主人公の怒りが描かれています。
- 読書バリアフリーに関わる法律や制度が整備されてきました(詳細は読み飛ばして大丈夫です)
2016年4月 差別解消法施行→これによりすべての公立図書館に合理的配所の提供義務が課される
2016年11月 学校図書館ガイドライン→障害のある児童生徒や日本語能力に応じた支援を必要とする児童生徒の自立や社会参画に向けた主体的な取り組みを支援する観点から…様々な形態の図書館資料を充実することが望ましいとされた。例えば、点字図書、音声図書、拡大文字図書、LLブック、マルチメディアデイジー図書、外国語による図書、読書補助具、拡大読書器、電子図書等の整備
2019年1月 改正著作権法施工→すべての公立図書館等において、視覚障害者等のために音声化、電子化等の複製と公衆送信が可能に
2019年6月 視覚障害者等の読書環境の整備の促進に関する法律(読書バリアフリー法)施行
2024年7月 改正 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(教科書バリアフリー法)施行→日本語指導が必要な外国籍の子どもも対象に追加
2025年3月 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(第二期)策定
このように、法律の整備とともに、徐々にではありますが、読書バリアフリーへの取り組みも広がっているようです。
福岡県内では、筑後市で図書館と商工会議所がコラボし、一人での来館が困難な方に対し、貸出図書の宅配サービスを行っているそうです。もともと買い物難民のために商品の配達サービスを様々な店舗が行っていたところ、図書館の本も宅配で取り寄せることができるようになったとのことです。
- 発信する情報を「分かりやすく」「読みやすく」するポイント
私たちにもできることとして、情報を発信するときに、読み手にわかりやすくなるような工夫が考えられます。
- 文字の大きさ
- 文字の種類(ゴシック、メイリオ、UD(ユニバーサルデザイン)フォント)
- 色使い(カラーユニバーサルデザイン。すべての人に伝わりやすい色使い)
- やさしい日本語(NHKやさしいことばニュース、「やさにちチェッカー」では優しい日本語になっているかチェックできる。)
- ピクトグラム(下のような絵記号をいいます)の使用(文章の下にピクトグラムをのせる。JIS規格のものはウェブサイトからダウンロード可能)

- 文章表現を分かりやすくするために
文章を書くときにも、わかりやすくするための工夫があります。
(「図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン」から)
① 具体的に書く。
- 難しいことばの使用は避ける。
- 漢字やひらがなの長い語彙は避ける。
- 具体的な情報を入れる。
- 必要の度合いが少ない情報は削除する。
② シンプルな構文にする。
- 起承転結をはっきりさせる。
- 時系列にそった展開にする。
- 一文は一つの内容にする。
- 手順のある内容は、番号をつけて箇条書きにする。
- 主語は省かない。
- 接続詞はできるだけ使わない。
③ 複雑な表現を避ける。
- 抽象的な言葉(隠喩)や比喩的な表現、擬人法は避ける。
- 専門語、方言、略語、なじみのない外来語は避ける。それらを使用する場合は、ことばの意味の説明を加える。
- 二重否定は使わない。
④ 表記する時の注意点
- 常とう語は、そのまま使う。(常とう語はある場面にいつもきまって使われることばです。)
- 小学校2~3年生程度の漢字を使い、ルビをふる。(ルビが見にくい人には配慮する。)
- 同じ意味の情報は分散しない。
- 同じ意味のことばは、同じ言い方にする。
- 他のところを参照するという表記はしない。
- 単語や文のまとまりで改行する。
⑤ 対象者の年齢を尊重し、年齢に相応しいことばを使う。
⑥ 実際の利用対象者の意見を取り入れる。
このように書いてきて思いますが、わかりやすくというのは難しいです。しかし、まずは読書にバリアのある人がいることを知り、自分が読書できていることを当たり前だと考えないこと、自分にできることは何かを知り、一つでもできることを実践していくことが大切なのだと思います。まずは人に知ってもらいたいと考え、記事を書きました。