《戦争も核兵器もない世界を求めて》 ―被爆者児玉三智子さんのご講演をお聴きして
はじめに
昨年もちょうど今頃、全国私立学校教職員組合連合(全国私教連)が主催する全国私学夏季研究集会(全私研)のことを書きましたが、今年も7月25日から28日にかけて山口県湯田温泉で「シン・ヤマグチ全私研」が開催され、私も参加してきました。全私研は、全国の私学から参加する教職員、父母、生徒の「学びと交流、そしてつながりづくりの場」として開催されてきたもので、今年で55 回目を迎えました。
さて、今回の全私研では、記念講演として日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の事務局次長を務めておられる児玉三智子さんがお話しされ、私もこのご講演をお聴きする機会を得ました。この記念講演の演題が、本原稿の表題に使わせていただいた《戦争も核兵器もない世界を求めて》でした。演題には、~きのこ雲の下の体験を次世代につなぐ~という副題が添えられていました。
私は、この児玉三智子さんの講演をお聴きする機会を得ることができた者の一人として、その貴重なお話の内容について、せめてその一端だけでも、ひとりでも多くの方に報告する責任があるのではないかと思い、この原稿を書かせていただく次第です。
児玉三智子さんについて
児玉三智子さんは、1945年8月6日のあの日、当時7歳の国民学校2年生の時に、広島の爆心地から4キロほど西にある古田小学校で、アメリカが投下した原子爆弾に被爆した被爆者です。児玉三智子さんは、原爆被爆者としての長い苦難の道を歩き続ける中、「自分たちの体験をとおして人類の危機を救う」との決意の下、世界に向けて「ふたたび被爆者をつくるな」「核兵器をなくせ」と訴え続けてこられました。児玉三智子さんは、発病の恐怖を常に抱きながらも、日本被団協の事務局次長として、国連本部での原爆パネル展・国際会議など、被爆の実相を世界に伝える事業に取り組むほか、被爆体験を次世代に承継するために全国各地の学校に出向いての講演活動を続けておられ、また高校生平和ゼミナールの活動を積極的に支援して平和を求める高校生たちに寄り添ってこられました。
核兵器は私たちの生と両立することはできない
当日の講演において、児玉三智子さんは、自らが体験された壮絶かつ凄惨な原爆被害を生々しい肉声で語られました。そのお話を聞いて、私は改めて、「核兵器」という悪魔の兵器が、人類並びにすべての命あるものと併存することなどできないものであるという認識を深くしました。勿論、被爆者の方々が受けてこられた筆舌に尽くせない苦しみを、私が本当の意味で分かった等と軽々しく述べることはできません。しかし、幸いにして核兵器の被害を体験することなく日々を暮らしている私たちには、健全な想像力を働かせて、被爆者の方々が受けてこられた苦しみと核兵器の残酷さ・恐ろしさをしっかりと認識するよう努める責務があるのだと思います。
児玉三智子さんは当日配布されたレジメの中で、「身体の中で、遺伝子が、染色体が壊され、外見はなんともなくても、身体の中から命を奪われました。髪の毛がバサット抜け落ちた人、顔から身体に紫斑が現れた人、下痢を繰り返し、血を吐く人、何人もの人が次々亡くなっていきました。かろうじて生き残った被爆者も、放射能の後遺症で次々と亡くなっていきました。原爆は、人として死ぬことも、人間らしく生きることも許さなかったのです。人々はうつる、などと言い怖がりました。」と記しておられます。被爆者の方々は、被爆自体の苦しみのみならず、差別、偏見からくる心の痛みをも抱えてこの80年を生きてこられたことが伝わってきます。
「核兵器禁止条約」から核兵器廃絶の実現へ
この原稿の最後に、当日児玉三智子さんが聴衆に配布されたレジメの文章を引用させていただきます。レジメには、次のようにありました。
「私たち被爆者には残された時間は多くありません。被爆者の声を、願いを、一人でも多くの人に伝え、核兵器の非人道性を訴えてください。今核兵器をめぐる世界の情勢は極めて厳しい状況にあります。
もし、核兵器が意図的であれ、偶発的であれ、ふたたび使われることがあれば、未来に、甚大な被害をもたらします。明日の日本、世界を担う次世代の皆さんが、核被害者になるかもしれないのです。その被害は国境を超えて及びます。
みなさん、あなたが、あなたの家族が、あなたの愛する人が核兵器の被害者にならないために、戦争も核兵器もない世界を実現する努力を諦めないで、つづけましょう。原爆の被害は過去のことではありません。現在、未来のことです。
核兵器禁止条約は国際法として、歴史に刻まれました。核兵器の廃絶を世界の歴史に刻むのは皆さんです。核戦争が起これば人類は滅亡します。滅亡から救う唯一の道は、核兵器の廃絶です。
青い地球を守るのか、破滅の道を選ぶのか、今岐路にいます。私も被爆者の一人として、原爆被害の実相を語り伝え、核廃絶を訴え、命ある限り皆さんと一緒に歩んでいきます。
核兵器を作るのも、使うのも、私たち人間です。
そして使うことを止めることが出来るのも、
核兵器をなくすことができるのも、私たちです。
戦争も核兵器もない世界の実現を求め諦めないで共に力を尽くしましょう。」
平和への道を決して諦めてはならないという児玉三智子さんの言葉は、私たちが絶対に忘れてはならないものであると思います。
以上