「身柄事件」と「在宅事件」の違い
捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられている立場の者は、刑事訴訟法上、「被疑者」と呼ばれます(マスコミ報道では一般的に「容疑者」と表現されます)。
そして、被疑者に対する捜査は、被疑者を逮捕し、さらにその後、勾留して最大23日間被疑者の身体を警察署の留置場などに拘束して行う「身柄事件」と、被疑者の身体を拘束せず、被疑者は自宅で普段どおりの生活を送りながら、捜査機関の必要に応じて取り調べ等を受ける「在宅事件」の二種類があります。
「身柄事件」は、被疑者に定まった住居がない、証拠隠滅のおそれがある、逃亡のおそれがあるといった場合に限って認められ、それらに該当しない場合には被疑者の身体を拘束せずに捜査する「在宅事件」となるのが原則です。
令和7年版の法務省「犯罪白書」によれば、2024(令和6)年に検察庁に送致された刑事事件の全被疑者(自動車運転に関する事件を除く)のうち、警察や検察に逮捕された者が全体の34.6%で、このうち、さらに勾留が認められた者が90.7%であることから、検察庁に送致された刑事事件全体のうち約31%が、被疑者が逮捕や勾留をされた「身柄事件」であり、残り69%が「在宅事件」となっています。
このうち、「身柄事件」に関しては、刑事事件における身体拘束に関する手続と、その解放に向けて弁護士が取り得る手段について、時間の流れに沿って詳細に解説した記事を既に書いていますので、詳しくは、拙稿の2024年1月25日付け弁護士記事 「刑事事件は時間との闘いである~身体拘束からの解放を目指す弁護活動~ | 福岡第一法律事務所」をぜひご覧ください。
「在宅事件」は時間無制限でいいのか
今回、問題にしたいのは「在宅事件」についてです。
被疑者が逮捕や勾留をされる「身柄事件」では、身体拘束による肉体的精神的負担が大きく、また社会活動(仕事や学業)や家庭生活などへの影響も多大であるため、前回の弁護士記事でも解説したとおり、逮捕、送検、勾留という手続ごとに厳格な時間制限があり、その時間制限の中で、捜査機関は、証拠収集や被疑者の取調べ、裏付け捜査など全ての捜査を終えなければなりません。そのため、「身柄事件」が発生すると、捜査機関は、その事件の捜査を最優先に行うことになります。
一方で「在宅事件」は、被疑者の身体を拘束せず、日常生活を続けさせながら必要に応じて被疑者を呼び出して取り調べをする捜査スタイルです。そのため、基本的には厳格な時間制限というものがありません。そうすると、捜査機関は、次々に発生する厳格な時間制限のある「身柄事件」の捜査に追われて、時間的制約のない「在宅事件」の捜査を後回しにすること自体は、ある程度やむを得ない側面があります。
しかし、だからといって、「在宅事件」の捜査を積極的に進めず、公訴時効(犯罪が終わった時から一定期間が経過すると起訴ができなくなる制度)にかからない限り、時間無制限で自由に捜査できるという捜査機関のご都合主義が許されれば、「在宅事件」の被疑者は大変困る事態も生じます。
具体的には、事件発生から何年も経ってから突然取り調べを受け、起訴された場合を想定してみてください。
事件発生直後であれば、被疑者や被害者、関係者の記憶は鮮明であり、被疑者は、明確な記憶に基づいて自分の言い分を詳しく供述し、場合によっては事件に関係する人に証言を頼んだり、重要な物的証拠を収集したりできる可能性があります。
ところが、事件発生から何年も経ってから突然警察や検察の取り調べを受けた場合、事件はもはや捜査をしないものという期待のもとに過ごしていた被疑者の平穏な日常生活は一変し、突然不安な日々を送ることになります。
そして何よりも、事件発生から何年も経った結果、被疑者の事件に関する詳細な記憶は減退して詳しい供述ができず、被害者や関係者ら証人の記憶も減退し、さらに重要な物的証拠も既に散逸している可能性が格段に高まり、被疑者の防御が著しく困難になる不利益を受けるおそれがあります。被疑者が高齢であればなおさらです。
もちろん、ここで問題にしている「在宅事件」の捜査は、事件発生から何年も経ってから新たな証人や物的証拠が見つかったとか、その間地道な補充捜査をしていて時間がかかったという場合を想定しているのではなく、捜査機関が正当な理由なく事件の捜査を放置して時間が経過したという場合を想定しています。
私も、現在、事件発生から約3年後に突然警察の取り調べが始まり、さらに警察の送検から約半年後に検察の取り調べを受け、事件発生からまもなく4年という段階で起訴された「在宅事件」の刑事弁護を担当しています。
本件は、まさに捜査機関が正当な理由なく捜査を放置して時間が経過した結果、高齢の被疑者の防御が大変困難になっている事件であり、私も弁護士として、怒り心頭に発っしております。
この事件の顛末は、裁判が終わってから改めて報告させていただきます。
こうした刑事事件に巻き込まれないことが一番ですが、もし万が一、刑事事件でお困りの場合には、すぐに当事務所にご相談ください。
弁護士は、必ず、あなたの力になります!