梶原恒夫 弁護士記事

2024年2月4日(日)

2024年問題

2024年問題とは

 2018年の通常国会で成立した「働き方改革法」により労働基準法が改正され、労働時間の上限規制が初めて法律の明文で規定されました。しかし、➀建設事業、②自動車運転業務、③医師という、従前から長時間労働が大きな問題とされていた3業種については、2024年4月1日まで適用を猶予するという形で「適用除外」とされてきました。つまり、本来最も上限規制が必要な業種について労働時間の上限規制から外されるというおかしな状態が続いてきたのです。そして、この4月からその猶予措置がなくなり、これら3業種についても労働時間の上限規制が適用されることになるため、これにより様々な問題が生じるのではないかというのがいわゆる「2024年問題」です。

問題含みの「働き方改革法」

 そもそも、この「働き方改革法」の誕生の仕方は問題含みのものだったということができます。すなわち、先の安倍政権は、2017年3月に閣議決定で策定した「働き方改革実行計画」のうち、労働時間法制と均等・均衡待遇法制・雇用対策法等の見直しを柱とする「働き方改革法案」を2018年の通常国会に提出し、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)を成立させましたが、そもそもこの法律は、労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善特措法、パート法、労働契約法、労働者派遣法、じん肺法、労働施策総合推進法(旧雇用対策法)、という8本にもわたる法改正を一括して行うというもので、立法目的・趣旨の全く異なる法律案を一本化して審議する点で重大な問題を孕むものでした。
 特に、労働基準法の改正に関していえば、長時間労働を抑制するための時間外労働の上限規制と、労働時間法制の「規制緩和」である裁量労働制の拡大・高度プロフェッショナル制度(その実体は専門職対象の「ホワイトカラー・エグゼンプション」の蒸し返し)という正反対の法律案を一括法案とするという極めて矛盾した内容となっていました。(ただ、「裁量労働制の拡大」については、厚労省の調査データ問題により安倍政権は法案から削除を余儀なくされました。)
 このような一括法案とした当時の安倍政権のねらいは、「働き方改革の推進」という聞こえのいい名称で裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度等の問題点が含まれる法案であることを分かりにくくするとともに、労基法改悪法案と時間外労働の上限規制や雇用形態にかかわらず公正な待遇を確保するための法案を一括法案にすることで、法案全体に対して国民が反対しづらくすることにあったといえます。このような次第で、働き方改革法による法改正には、労働者の権利に「役立ちうるもの」と「有害なもの」の両方が含まれるという結果となっており、注意を要するところです。

大きな問題を残したままの労働時間上限規制

 もともと安倍政権は、労働時間規制を企業の自由な活動を阻害する「岩盤規制」であるとみなして、これを掘り崩すことを狙っていたところ、長時間労働の弊害をなくすべきであるという世論や労働者・過労死遺族などの声の高まりの中、第二の電通過労自死事件という象徴的な出来事も生じ、労働時間の不十分な上限規制という妥協的な立法に至ったものであって、およそ1日8時間、週40時間の原則を実現しなければならないという強い決意で労働時間の上限規制の制定がなされたものではありませんでした。
 その結果、この改正は長時間労働の是正を真に保障するものにはなっていません。確かに、この改正によって、従来は存しなかった労働時間の上限規制が法律の明文で定められるという前進面はありますが、しかし、その上限は、原則を月45時間までとしつつ、例外として、制度上は年間合計960時間もの時間外・休日労働が許容されることになるなど過労死ラインをも超える長時間労働を容認する内容となっているという重大な問題が残されたままです。したがって、今後、できるだけ速やかに、真に長時間労働の是正に役立つ内容に改められる必要があります。

3業種に労働時間の上限規制が適用されても即問題解消とはいえない

 2024年問題に話を戻すと、建設・運輸・医師の3業種に労働時間の上限規制の適用猶予がなくなるといっても、例えば建設事業については、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする規制が適用されませんし、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制も適用されません。また、医師については、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限が最大1860時間とされていますし、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする規制及び時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用されません。このように4月以降も、大きな問題が残されたままです。もともと労働時間の上限を規制するだけでこれらの業種に従事する人々の過酷な状況が改善されるものではなく、例えば長時間労働をしなくても適正な賃金が得られる状況を作る等様々な施策が行われていく必要があると思われます。

3業種に従事する人々の過酷な労働状況を決して他人事として放置してはならない

 2024年問題と言えば、これら3業種に労働時間の上限規制が適用されることにより、物流が滞るのではないかとか、家が建たなくなるのではないかとか、十分な医療が受けられなくなるのではないかなど、そのような側面のみが議論されがちですが、問題の本質はもっと別の所にあるというべきです。すなわち、建設・運輸・医療という私たちの生活において欠かすことのできない重要な分野を担っている人々が長時間労働により極めて過酷な負担を強いられている状況をどうすれば改善することができるのか、果たして4月からの労働時間上限規制の適用だけで問題が本当に改善されるのか、ということをこれらの業種で働く人々から大きな恩恵を受けている私たちとしてもしっかりと考えていく必要があるといえます。これらの業種に従事している人々が過重な長時間労働の負担により人間らしく働くことを大きく阻害された状況が続いていけば、ひいては私たちの生活にも大きな支障が生じるのは必定です。これら3事業に従事する人々の状況について、私たちとしても決して他人事として放置してはならないはずです。

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弁護士紹介梶原 恒夫

梶原恒夫 弁護士

弁護士登録:1989年

主要な取組分野・フィールドは,「労働」をキーワードとする各種事件です。また,業務に関連して関心のある領域は,法哲学,社会思想,社会哲学です。常に勤労市民と一緒に活動していける弁護士でありたいと願っています。個別事件を普遍的な問題につなげながら。